第84話 どうするべきなのでしょうか

 なんだか気まずくて、俺は空気を変えようと、彼女に話しかける。


「な、なあ。あんた、聖騎士を辞めて、これからどうするんだ?」

「やることは決まっている」

「へえ。あっ、ちょっ、そこはいいって、自分でやるから」

「遠慮するな。今のあなたの体では、ここを拭くのは一苦労だろう。私に全部任せておけ」

「任せておけって、ちょっ、あうぅ……」


 少々強引に、ナイーブな部分をまさぐられ、またしても変な声が出る。


 いけない。

 ここらへんで切り上げてもらわないと、変な雰囲気になってしまいそうだ。


「も、もうこの辺でいいよ。ありがとな。助かったよ」

「この辺でいいって、まだ下半身を拭いていないぞ」

「下半身はいいよ!」

「いやよくない。あなたも女なら、入浴できないときも、常に身ぎれいにしておくべきだ」


 そう言い終わるのと同時に、イングリッドは俺が下半身に履いていたものを手際よく剥ぎ取ってしまう。

 一応、抵抗を試みたのだが、足は腕以上に疲労の極に達しており(あれだけ飛んだり跳ねたりしたのだから、当然か)、俺は簡単に裸にされてしまった。


 イングリッドは俺の体を頭のてっぺんからつま先まで観察して、感心したような声を上げる。


「綺麗な体だ。輝く銀髪にばかり視線がいって、あまり分からなかったが、肌も白いのだな」


 そこで一度言葉を切り、彼女は俺に覆いかぶさるようにして、足を撫でてくる。


「こんな綺麗な体を、傷つけてすまない……私に、詫びをさせてほしい……♥」

「おい、やめろ。台詞にハートマークをつけるんじゃない」


 やばいぞこいつ。

 目が爛々としている。

 詫びだのなんだの言っているが、欲望に任せて、俺を手籠めにする気まんまんじゃねーか。


 まあ、決闘が終わった後から、俺の子供が欲しいとか、ねやを共にするとか、どストレートに言ってたから、こうやってグイグイ来るのも不思議ではないのだが、まさか、本当にいきなり仕掛けてくるとは思っていなかった。


 どうしよう。

 どうしよう。

 どうするべきなのでしょうか。


 俺は、ちらりとイングリッドを見る。

 意外にも長い睫毛に、整った鼻梁、柔らかそうな唇。

 美人だなと、改めて思う。


 一般的な男なら、これだけの美女にグイグイと迫られて、拒否の意思を示すことなど、ほとんどないのではないだろうか。

 ましてや、憎い相手ならともかく、俺はイングリッドには一応、好感を持っている。


 しかし――


「なぁ。そういうの、やめて。今日は本当に疲れてるから、このまま寝かせてくれないかな」

「えっ、あっ、はい……」


 俺がハッキリと拒絶の意思を述べると、興奮に猛っていたイングリッドの顔はしゅんと萎み、おあずけを食らった犬のようになってしまう。俺の気持ちを無視してまで、ことに及ぶ気はないのだろう。強引だが、根は優しいのだ。


 脱がされた服を着なおして、俺はベッドに横たわる。


 イングリッドは「床で寝ます……」と言い、申し訳なさげにベッドから出ていこうとしたが、そこまでさせるのはかわいそうだったので、「変なことしないなら一緒に寝てもいいよ」と告げると、その言葉を待っていたように、ベッドへと飛び込んできた。なんというか、大型犬みたいな女だ。

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