第73話 悪くない賭け

 自分でも変わり身が早いと思うが、決闘前の態度や、地に膝をついた相手を攻めない高潔さ。そして、ギブアップや引き分けはないと強く言っていたにもかかわらず、最終的にほこを収めてくれた優しさに、俺は彼女に対して、好感を持つようになっていた。


 しかも、今は何者かに操られているも同然なのだ。

 そんなイングリッドの視力を奪うなんて、俺にはできない。

 もう一度、強い調子でジガルガに問う。


『目を潰す以外に、彼女を止める方法はないのか? 頼む、考えてくれ!』

『まあ、あるにはある』


 あるのかよ!

 即答じゃねーか!


『なんだよもう! あるならもったいぶってないで教えてくれよ!』


『別にもったいぶってはいない。目を潰す方法より成功率が低いから、候補に挙げなかっただけだ。……では、あらためて説明しよう。今現在、我が取り得る選択肢は三つ。一つは目潰し戦法。これは成功率95%だ。ほぼ確実に決めることができる』


『それはもういいから、残りの二つは?』


『第二の選択肢は、チョークスリーパー等の技を使って奴の首を締め上げ、昏倒させることだ』


『チョークスリーパー? ……ああ、プロレスかなんかの技ね。それいいじゃん。意識を失わせるだけなら、余計な怪我させずに済むし』


『だが成功率は12%だ』

 

 低いなおい!


『当たり前だ。もともとの腕力が違いすぎる上に、今のあの女は、邪鬼眼の術で狂暴な獣同然。それを抑え込むのは我の戦闘術を駆使しても至難の業。だから最初から候補に挙げなかったのだ』

『じゃあ、最後の――三つ目の選択肢は成功率何パーセントなんだ?』

『64%』


 おっ、悪くない数値。


『よし、それでいこう! ……具体的には、何するの?』

『全身のオーラを踵の一点に集中。しかる後、地面を蹴って飛翔。これにより、跳んだ勢いを全て攻撃に使える。それから胴廻し回転蹴りの要領で、全身の体重を踵に乗せ、奴の顎へ最適な角度で衝撃を与える。さすれば、いかに体力とオーラに差があろうとも、強烈な脳震盪を起こし、奴の行動の自由を奪うことができる。しかしこの方法には重大な危険が……』


 ああもう。

 相変わらず難しい言い方するな。


『すまん。もっと簡潔に頼む』

『つまり、捨て身の特攻を仕掛けるということだ。はずれれば隙だらけ。奴の反撃で、ぬしの体は砕け散るだろう』

『なるほど。分かりやすい』


 俺は、数瞬考える。

 成功率64%か。

 賭けとしては悪くない数値だ。


 外れる確率はたったの36%。

 俺の体――命を賭けることに、もう迷いはない。

 ただ、心に気にかかるのはレニエルのことだ。

 ダメもとで、聞いてみる。


『なあ、もし俺が死んだら、俺を生かすために使われているレニエルの魂の半分って、不要になるわけじゃん?』


『分魂の法のことを言っているのか』


『うん。それでさ、お前、俺たちの知らないこと、いっぱい知ってるじゃん? だから、レニエルの魂の半分を、あいつに返してやる方法も知ってたりしない?』


『まあ、できないことはない』


 おっ。

 さっすが~。


『ならさ。もし今からの特攻作戦が失敗して俺が死んじゃったらさ。あいつに魂を返してやってくれよ。よし、これで憂いはなくなった。さあ、さっき言ってた胴廻し回転蹴り? だっけ? をやってくれ。スタミナがなくなる前に』

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