第57話 目覚め
レニエル
まあ、あのイノシシ女、強い相手と自分を侮辱した相手以外は、視界の中に入ってなさそうだもんな。
これなら、死んだはずの第二王子レニエルが、実は生きていたぞとリモール王国に報告されることもないだろう。
それはまあ、本当によろしいことなのだが、このままでは、決闘で俺がイングリッドに殴り殺され、魂を分け合った俺とレニエルは、一緒に死んでしまうということになりかねない。
今回ばかりは、自分の軽率さを悔やむしかない。
良い作戦など、簡単に浮かぶはずもなく、俺は
「はぁ……どうし……」
「何度同じ言葉を言うのだ。思考が停止しておるぞ。もう少し、建設的に頭を使ったらどうだ」
うぉっ、ビックリした。
誰だよ、こっちの気も知らないで、偉そうに。
俺は、突然声をかけてきた無礼者に、八つ当たりでもしてやろうと、その姿を探す。しかし、近くに人の気配はない。
不可思議な事態に、小さく首をかしげると、頭が何かに当たった。
「ふぎゃっ、こら、気をつけんか。我が肩に乗っておるのだぞ」
言われて、自分の肩を見る。
「あっ」
思わず、声が出た。
嘘だろ?
あれは、夢じゃなかったのか。
俺は、しばらくぶりの黒髪ツインテールに、声をかける。
「ジガルガ!」
「うむ」
ジガルガは、腕組みをして、深々と頷く。
相変わらず、動作の一つ一つが、妙に仰々しい奴だ。
「『うむ』じゃないよ。お前、どこ行ってたんだよ。あんまり姿を見せないから、お前のこと、夢だと思ってたんだぞ」
「どこに行くも何も、寝る前に言うただろう。『疲れたから少し眠る』と」
「寝すぎだろ! あれから何週間経ってると思ってんだよ!」
「我の睡眠時間は長いのだ。頭をよく使うからな。たっぷりと寝て、脳の疲労を取らねばならん」
「ああ、そういやお前、人造魔獣の頭脳担当とか、言ってたよな」
そこで俺の頭に、小さなひらめきが走った。
こいつは、人間よりも多くの情報を頭に持っているようだし、イングリッドと戦う、何か良い作戦でも考えてくれないだろうか。
俺は、藁にもすがる思いで、現在の状況をジガルガに説明した。
「ふーむ、なるほど。仲間思いなのはいいが、ぬしは少々短気すぎるな。今回のことは、身から出た錆というやつだ」
「んもー、お説教はいいよ。自分でも今回ばかりは随分反省した。なあ、何か良い作戦、思いつかないか?」
「そうだな。まずは、ぬしと敵のスペックを把握しておきたい。彼を知り己を知れば百戦殆うからず――これは、異世界の賢者の言葉よ」
「あ、それ知ってる。孫子の兵……いや、今はそんな話してる場合じゃないな。ええっと、俺の特技は……」
「喋らずともよい。額をこちらに向けよ」
「こう?」
ジガルガの指示通りに、俺は額を肩の方に突き出す。
そこに、ジガルガが自分の小さな頭をこちんと当てた。
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