第53話 遭遇

「こちらこそ、すまない。このせいかく、じぶんでも、どうしようもない」

「いや、それは別にいいんだけど、なんでカタコトなんだよ……」

「ナナリーさんと話すのに、緊張されているのでしょう。僕が代わります。タルカスさん、いったい何があったのですか?」


 レニエルが間に入ったことで、タルカスは急にシャキッとした。


 ミニスカの『宵闇の鎧』のせいもあって、外見は前以上に完璧な美少女なのだが、タルカスの中では、レニエルはキッチリ男にカテゴライズされており、俺を相手にしていた時と違って、流暢に言葉を紡ぐ。


「女性に追われている。昨日からずっとだ。助けてほしい。何度言っても、諦めてくれないのだ……」


 そこで、俺は先程のゲインとの話を思い出した。

 例の『厄災のイングリッド』とやらは、レニエルの言う通り、異様なしつこさで、昨日からずっとタルカスを追い回しているようだ。


「ほとぼりが冷めるまで、どこかに隠れてはどうでしょうか?」


 レニエルの提案に、タルカスは首を横に振る。


「私もそう思って身を潜めていたのだが、どういうわけか、どこに隠れていても、彼女は私を見つけるのだ」


 その時、タルカスの背後から、凛とした巨声が轟き渡った。


「見つけたぞっ! さあ、いい加減に諦めて、私と勝負してもらおうか!」


 で、でけー声……

 タルカスは『もう勘弁して』といった感じで、俺の背後に隠れようとする。

 まあ、2メートルを超える巨体が、俺の体で隠せるわけもなく、丸見えなのだが。


 巨声の主――聖騎士イングリッドは、ガシャガシャと甲冑を鳴らして、こちらに近づいてくる。


 タルカスほどじゃないが、こいつもなかなかでかい女だ。

 身長175cm……くらいかな。


 燃えるような長い赤髪に、強固な意志を宿した鋭い瞳。

 そして、重たい甲冑を身にまといながらも、まったく無駄のない足運び。

 一目見て、ただ者ではないと分かる。


 イングリッドは、俺とレニエルのことなど、気にも留めていない様子で、ゲッソリ気味のタルカスに爛々と光る眼差しを向けている。


「貴殿も男なら、女に勝負を挑まれて逃げるなど、恥というものだろう。さあ、いざ尋常に勝負!」


 言いながら、イングリッドは腰に携えていた剣を、鞘から引き抜いた。


 レニエルの持つ聖騎士の剣と比べて、長さも重さも倍はありそうな大剣だ。

 それを、片手で軽々と握り、もう逃がさないと言うように、切っ先をタルカスに向けている。


 ……勝手な奴だ。

 俺の心に、チリチリと種火に似た怒りが湧いた。


 自分勝手な理屈で、嫌がる相手を追い回し、挙句に『女に挑まれて逃げるのは恥』だと? 俺自身、シルバーメタルゼリーだったころ、身勝手な冒険者に散々追い回されたので、こういう奴は大嫌いだ。


 いつの間にか、俺はタルカスを庇うように一歩前に出て、イングリッドを睨みつけていた。


「おい、やめろよ。嫌がってるだろうが。タルカスは、女とは戦わないって言ってんだよ」

「なんだ貴様は? これは武人同士の間のこと、小娘ごときが口を挟むな」


 イングリッドは、俺につまらなそうな視線を向け、相手をするのも面倒くさそうに言う。

 どうやら、強者つわもの以外には敬意を払わないタイプのようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る