第39話 自己防護魔法

「条件その一……作成者の子孫が、本を傷つけようとした場合、本は自動的に自分の身を守る……」


「ふむふむ」


「条件その二……作成者の子孫が、この本を誰かに譲渡した場合、本は一瞬で譲渡された者を呪い殺し、作成者の子孫の元に戻ってくる……」


「おい。今、さらっとヤバイこと言わなかったか。やっぱそんなやべー本、引き受けられないよ」


「安心しな……私が長い長い年月をかけ、本にかかってる魔法を弱める解呪を続けてきたからね……条件その二の自己防護魔法は、発動しないようになっている……現に、本を譲渡されたのに、今あんたは生きているだろう……?」


 俺は、ふぅっと息を吐いて、額に浮かんだ冷や汗を拭った。


「ヒヤヒヤさせやがる。それにしても、本の作成者の子孫は破壊できないって、そんなヘンテコな魔法、本当にあるのかよ」


 疑り深げに言うと、黒ローブは笑いながら「見てな」と呟いた。

 近くにあった剣が、ふわりと宙に浮く。


 黒ローブが、魔法で操っているらしい。

 剣はよどみない動きで鞘から抜かれ、白刃が勢いよく俺の方にすっ飛んでくる。

 

「うわっ、あぶねっ!」


 俺は本を盾代わりにして、剣を受け止めた。

 瞬間、黒い雷光が禍々しく輝く。


 そいつは、俺の持つ本から、自身を守るバリアのように放たれていた。

 黒いバリアは、本に刃が突き刺さる寸前で、見事に剣を止めている

 しばらくして、剣が本から離れると、バリアは最初からなかったかのように消え失せた。


「さて、お嬢ちゃん……今度は、お前さんがその剣を握って、本を傷つけてみな……開いてしまわないように、端っこの方をだよ……」


 有無を言わせぬ黒ローブの声に、俺は黙ってうなずくと、剣を握り、言われたとおりに本の端を軽く切ろうとする。


 あのバリアが発生しないかとビクビクものだったが、特に問題なく、本の隅っこに小さな傷をつけることができた。


 どうやら、黒ローブがこの本を傷つけられないというのは、本当のことらしい。


「これで信じてくれたかい……?」

「うーん、まあ、一応ね。でも、あんたの祖先が作って、こんな防護魔法まで施して子孫に残した本を、処分しちゃっていいのか?」


 黒ローブは、少しも迷うことなく、言った。


「いいんだよ……さっき、お嬢ちゃんが言った通り、この本には、凶悪な魔物が封印されている……私の先祖が作った、人造魔獣がね……ご先祖様が、そいつを使って何をしたかったのか、あるいは、子孫に何をさせたかったのかは知らないが、そんな物騒なもん、私には必要ないからね……」


「人造魔獣か……なんか、おどろおどろしい感じだな」


「ふふ……心配ないよ、本に封じられたまま燃やしちまえば、ただの紙くずと同じさ……くれぐれも、本を開いて中を見てみようなんて思わないようにね……」


「ああ、分かったよ。帰ったら、今日のうちに処分しちまうとしよう。これで取引成立だな」


 本を荷物袋の中に入れると、俺は残りの所持金を差し出した。


「はい、これ、商品の代金ね。ここ二週間の稼ぎが吹っ飛んだが、なかなか良い買い物ができた。他にも色々、業物が揃ってるみたいだし、また何かあったら寄らせてもらうよ」


 レニエル用の『宵闇の鎧』と、俺用の『精霊の服』を受け取り、店主に挨拶して店を出る。

 ちょうど玄関をくぐったあたりで、背後から、声をかけられた。


「うちの品物は、どれも魔力が宿った『魔装』だからね……注意書きを入れておいたから、ちゃんとルールを守って使うんだよ……」

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