第3話 デートのお誘い

『昨日はゴメン。ちょっと話したい事があるから、直接会えないかな?』


 明けて翌朝の日曜日、サトミのスマホにカズヤからメッセージが届いた。


 ベッドでただ呆然と…無気力に横になっていたサトミは、慌てた様子で跳ね起きる。それから2階の自室の窓から外を覗くと、ジャージ姿で玄関先からコチラを見上げるカズヤと目が合った。


「今行く」


 サトミはクルリと回れ右、薄桃色のルームウェアのままバタバタと階段を駆け下りていく。


 それから玄関のドアノブに手をかけ、一度大きく深呼吸した。


「おはよう、カズヤ」


 開けると同時に笑顔を見せる。


「お、おう、おはよう」


 カズヤは照れ臭そうに頭を掻くと、やや俯き加減で挨拶を返した。


「何、話って?」


「あーうん、あー…昨日はゴメンな」


「ううん、突然誘った私も悪かったし」


「あー…別に嫌だったとか、そーいうんじゃないんだ。ただ何つーか……あーチキショウ!」


 突然カズヤが、自分の両頬を思い切り引っ叩く。


「今度は俺が金払うから、その映画、今から二人で観に行こう!」


「え…⁉︎」


 いきなりの申し出に、サトミの目が丸くなった。 


「ホントに…?」


「ああ」


「でも、つまらないかもしれないよ?」


「いいんだ。それでも俺はサトミと観たいんだ」


「わ、私もカズヤと一緒に観たぃ…っ」


「朝っぱらからお熱いことで」


 そのとき轟いた野太い声に、サトミの身体がビクリと震える。


 昨日と同じ、灰色パーカーにジーンズ姿の大柄な男が欠伸をしながら立っていた。


「兄ちゃん、何でここにっ⁉︎」


「何で…って、そこが俺の家だからな」


 ダルそうに、再び欠伸をしながら返事を返す。


「ぐ…確かに」


「それにしても、結局映画行くんだな?」


「な…兄ちゃんには関係ないだろっ」


「俺もついてっていいか?」


「は⁉︎ 何でだよっ」


「俺も興味あるって言ったろ?」


「い…嫌だよ、絶対イヤだっ! 観たいんだったら一人で行けよ」


「そこを何とか頼むよー。野郎ひとりで恋愛映画なんて寂しすぎるだろー?」


 弟より頭ひとつ身体が大きいマサヤは、容易にカズヤの肩に腕をまわして、グイグイと上から押さえつける。


「嫌だっ、今日だけは絶対にイヤだっ!」


「だったらサトミちゃんにも聞いてみよーぜ。それで駄目なら諦める」


 言いながらマサヤは、カズヤの死角からスマホの画面をサトミに見せつけた。


 すると何の気無しに視線を注いだサトミの表情が、みるみると急激に蒼ざめていく。


「どーかなーサトミちゃん? 映画が終わったら直ぐに帰るし、ご一緒させて貰えないかなー?」


 サトミの表情に満足したのか、マサヤは口元に下卑た笑いを浮かべた。


「え…映画だけなら、別にいいんじゃない? す…直ぐに帰るって、言ってるし…」


 サトミは悔しそうに唇を噛み締めると、顔を伏せて必死に声を絞り出す。


「ちぇっ、分かったよ。そん替わり直ぐ帰れよ」


「分かった分かった、約束するよ」


 ビシッとカズヤに指差され、マサヤは肩をすくめて苦笑いした。

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