きもだめし

津嶋朋靖

「お兄ちゃん。こっち向いて」


 背後から妹の声がかかったのは、俺が自室で机に向かってPCで大学に提出するレポートを書いている時だった。


希美のぞみ。部屋に入る時はノックしろと言っているだろ」


 振り向きもしないで俺は答える。


 いや、ノックなどしなくてもノブの回る音には気が付いていた。気が付いたからこそ、さっきまでPC画面に表示されていた巨乳お姉さんの画像を慌てて閉じてワードの画面を開いたのだ。


 見られてなかっただろうか?


「ねえ、こっち向いてよ」

「断る」


 ええい、早く出ていけ。俺はお前のまな板胸などに用はない。一刻も早く、俺はボンキュバーンの世界に戻りたいのだ!


「こっち向いてくれないと、パソコンでエッチな写真を見ていたのを言いつけてやる」


 くそ! 見られていたか!


「やめんか!」


 ふり向いた俺の目に映ったのは、押入れの前でうごめく白いシーツ。下手くそな絵で顔が描いてあるが、あれって洗濯で落とせるのか? 落とせなかったら、後で母ちゃんに叱られるぞ。


「希美。一応聞くが、なんのつもりだ?」

「おばけだぞう」


 俺は大きくため息をついて頭を抱えた。


 シーツが床に落ちる。中から、妹の希美が出てきた。


 シーツから出てきた希美の服装は、白い半袖ブラウスに赤いミニスカート。髪はおかっぱ頭なので、シーツなど被らんでも、このままトイレの花子さんで通用するな。


「ねえ、お兄ちゃん。怖かった?」

「怖いわけねえだろ!」

「うーん、恐怖が足りないかな?」

「そういうレベルの問題じゃない。おまえそれで、明日の肝試しの脅かし役やる気か?」


 明日、町内会の夏祭りがあり、そこで肝試しをやることになっていた。希美は脅かし役を買って出たのだが、こりゃあ止めさせた方がいいかな。いい笑い者になるだけだ。


「これでやると言ったら、あきら君に却下された」


 昭君って、同級生だったな。


 よくぞ、このアホを止めてくれた。褒美として、将来妹を嫁にやろう。


 え? いらない。まあ、そう言うな。希美はアホだけど、きっと美人になる。たぶん美人になる。美人になるんじゃないかな?


 胸の大きさは、保障できんが……


「それでね。お兄ちゃん。昭君が凄い仕掛け作ったのよ」

「どんな?」

「秘密。明日来れば分かるよ」

「行かないよ」


 んな暇あるか。


「来ないの?」

「行かない」

「怖いの?」

「怖いわけないだろ。レポートで忙しいんだよ」

「サボって、エッチな写真を見ていたくせに」

「あれは気分転換だ」

「気分転換に肝試しに来てよ」

「行かない」

「いずみちゃんも来るのに」


 なんだと? いや待て……


「お前の同級生のいずみちゃんだな」

「違うよ。同級生のいずみちゃんなら、五月から行方不明だし」


 そう言えば、そうだった。あの時は大騒ぎになったけど……まだ見つかっていなかったのか?


「いずみちゃんって、喫茶店ポランのウエートレスやっている女子大生のいずみちゃんだよ」


 あの美人ウエートレス。もちろん体型は、ボンキュバーンだ。


「ああ、そうだな。気分転換に行ってみるかな」

「いずみちゃんが、キャー!!って、兄ちゃんに抱きつくの期待しているんでしょ」

「お……俺が、そんな……うらやまけしからん事……」

「期待してるんでしょ?」

「うぐ……それは……」


 その夜、俺は徹夜でレポートを書き上げた。

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