第3話(2)ゲーセンに寄ってみた
「やっぱアッキーナは面白れぇなぁ」
「昔からのお友達なの?」
「おう、アタシ小学校のときこの辺に住んでてよ、あの子の妹がアタシらの一個下でさ、最初にその妹と仲良くなって、次第にアッキーナとも遊ぶようになったんだよ」
「結局なんで関西弁なのかは分からず仕舞いだったわね……まあもう会うこともないでしょうから考えるだけ無駄ね……」
そう呟き、聖良ちゃんは首を横に振りました。
商店街に到着してお目当てのお店に向かう途中、あるお店の前で聖良ちゃんがふと立ち止まりました。
「? どうしたの、聖良ちゃん?」
「え、い、いやえっと、その…」
先を歩いていた竜乃ちゃんが振り返り、お店の方に目をやります。
「お、ゲーセンじゃん、懐かしいな、まだあったんだこの店」
そのお店は「ゲームセンターIKEDA」という名前の3階建てのゲームセンターでした。
「ビィちゃん、ちょっとだけ遊んでかねぇ?」
まだ時間的には余裕があるのですが、これ以上寄り道してはキリが無いと思った私は、その提案を却下しようと思いましたが、
「も、桃ちゃん! ち、ちょっとだけ覗いて行かない?」
「え? 聖良ちゃんも? ……まあいいや、ちょっとだけだよ」
私たちはゲームセンターに入っていきました。
「よっしゃ、じゃあちょっと腹ごなしに『おどくる』やってくるわ」
そう言って、竜乃ちゃんはフロアの奥に消えていきました。『おどくる』とは、『踊れ踊れ踊り狂え』というゲームの略称で、人気のリズムアクションゲームです。ポツンと残された、私たち二人。すると聖良ちゃんが話しかけてきました。
「も、桃ちゃん!」
「ん、何?」
「あ、あのさ、もし良かったら、一緒にプリクラ撮らない?」
「プリクラ? うん、良いよ」
私たちは何台か並んでいるプリクラの台を一つ選んで、その中の撮影スペースに入りました。
「えーっと、どうする?」
「桃ちゃんに任せるよ」
「そう?じゃあ、フレーム選んで……っと……ハイポーズ」
私たちはオーソドックスなピースサインを取って、プリクラを撮りました。
「画像に文字とか書けるよ、何か書く?」
「え、いいよ、桃ちゃんが書いて」
「そう? ……じゃあシンプルにお互いの名前でも書こっか」
数十秒後、撮影したプリクラがシールとして印刷されました。私は台に備え付けのハサミを使って、10枚あるシールを5枚ずつに切り分けて、聖良ちゃんに渡しました。
「ありがとう……! ……実は私、こうやってプリクラ撮るの初めてなんだよね」
「え、そうなの?」
「うん、中学の時とか、サッカー部の練習の後もよく居残りで自主トレしていたから、チームの皆となかなか下校時間が合わなくて……」
「そうだったんだ……」
「だからこうして誰かとプリクラ撮るの夢だったんだ、しかも桃ちゃんと一緒になんて……このシール一生大切にするね!」
「そんな、大げさだなぁ」
そう言って私は笑いましたが、キラキラとした瞳を向けてくる聖良ちゃんに妙な照れ臭さを感じ、目線を逸らしてしまいました。
「せ、せっかくだからさ、他の台でも撮ってみない?」
「え、良いの?」
「思い出はいくつあってもいいじゃない、聖良ちゃんが好きな台選んでいいよ」
「え~そうだなぁ…」
どの台にするか、吟味し始める聖良ちゃん。やがてある台の前に止まり、
「あ!『盛れる』プリクラだって! 面白い、こういうのもあるんだ。じゃあ、これにしよう」
「うん、良いね」
私たちは再びプリクラ台の撮影スペースに入った。
「う~ん、こっちも色んなフレームがあるんだね。どれにしようかな~」
「何だか楽しそうじゃね~の」
「「うわぁぁぁ⁉」」
私と聖良ちゃんが同時に驚きの声を上げます。
「そ、そんなデケェ声出すなよ」
両耳を指で塞ぎながら、竜乃ちゃんが驚いた顔でこちらを見ます。
「そ、そりゃいきなり背後からニュっと現れたら誰だってビックリするわよ! 普通に声かければいいでしょ!」
「いやぁ~楽しそうな雰囲気だったからなかなか声かけづらくてさぁ」
「全く……」
「じゃあ三人で撮るか」
「な、なんでアンタも入るのよ! お金出してないでしょ!」
「百円二百円位でケチケチすんなよ、ほら、フレームこれで良いんだな? よし、撮るぞ」
「あ、ちょっと待っ……」
聖良ちゃんの制止も空しく、撮影は行われました。
「こ、こうなったらアンタの顔だけ修正で消してやるわ!」
「や、止めろよ!」
タッチペンを取り合う二人を微笑ましく見つめながら私はふと確認画像に目をやりました。そこで私はまたも驚愕の声を上げてしまいました。
「どぅおわ⁉」
「ど、どうした、ビィちゃん⁉」
竜乃ちゃんが私の方に振り向きます。
「こ、ここ…」
「え? ……きゃあ!」
私が指差した先を見て、聖良ちゃんも悲鳴を上げます。画像の右下部分に、私たち三人以外の顔が写っているのです。
「こ、これ何……? まさか心霊的なやつ……?」
両手で口を覆いながら、聖良ちゃんが震えた声で呟きます。
「……!」
竜乃ちゃんが何かを察したように、撮影スペースのカーテンを勢いよく開けます。
「⁉」
そこにはニット帽を被った小柄な短髪の女の子が立っていました。彼女は慌てて、その場から脱兎の如く逃げ出そうとしますが、竜乃ちゃんの反応速度が勝りました。
「グエッ!」
竜乃ちゃんに文字通り首根っこ掴まれた彼女は観念したように私たちの方に向き直りました。「池田」と書かれた名札をエプロンの胸元に付けています。その服装から判断するに、このゲームセンターの店員さんのようです。眠そうな顔をしていらっしゃいます。
「お前、ここの店員だろ、なんでこんなことしやがる?」
「いや、少々騒がしかったので、リア充爆発しろ……じゃなくて、他のお客様の迷惑になると思って注意しようと……」
池田さんはブツブツと答えます。
「だったら普通に注意すりゃいいだろ、驚かすようなマネするのはどうかと思うぜ」
竜乃ちゃんの言葉に、私と聖良ちゃんは同時に(おまいう<おまえが言うな>)と思いました。
「客にこんな仕打ちをする店なんてSNSに晒しちゃおうかしら」
「そ、それは困る、叔母さんに怒られる、バイト代貰えなくなるー」
聖良ちゃんのエグい発想に、池田さんは狼狽します。
「わ、分かった、お詫びと言ってはなんだが、君たち一人ずつにこの店で好きなゲームを一回無料で遊ぶ権利をやろうー」
「マジかよ!」
「但しー」
喜ぶ竜乃ちゃんを制し、池田さんはこう続けました。
「そのゲームで私に勝ったらねー」
という訳で、私たち三人と池田さんによるゲーム対決が行われることになりました。まずは私の番です。私が選んだゲームは『ボンバーカート』です。これは爆弾などの様々なアイテムを使って、障害物を破壊しつつ、ゴールを目指すというレースゲームです。アーケード版は遊んだことがありませんが、家庭用は昔妹とよく遊びました。得意なゲームです。
「普通にやっても面白くないよねーハンデあげるー」
私の隣の台に座った池田さんがこう言い出しました。
「ハンデ?」
「うん、3周でゴールでしょ、このゲーム? だから私は2周遅れのスタートで良いよー」
「⁉ 良いんですか?」
「うんー」
正直随分とナメられたものです。しかしハンデをくれるというのですから、ここはありがたくもらっておきましょう。ゲーム画面内の信号が赤から黄色、そして青に変わりました。画面に大きく「START!」の文字が表示されます。それと同時にタイミング良くアクセルを踏み込んだ私の操るキャラ「モッシー」はロケットスタートに成功します。
「よし!」
これはもらった、私は快調に飛ばし、あっという間に3周目に入ろうとしました。宣言通り池田さんの操作キャラ「レディーコング」は沈黙を守ったままでした。しかし、私が3周目に入ったその瞬間、池田さんはおもむろにハンドルを握り、アクセルを踏み込みました。ですが、まさかここから追いつけるはずがありません。と思っていたのも束の間、池田さんの恐るべきドライビングテクニックにより、差はあっという間に縮まってしまいました。池田さんはアイテムを絶妙に使いこなし、さらに難しいはずのコースのショートカットにも難なく成功。気が付けば半周近くの差を付けられて敗れてしまいました……。
「桃ちゃんの敵は取るわ、次は私よ!」
二番手は聖良ちゃんです。選んだゲームは『ゾンビの鉄人』です。これは流れる曲のリズムに合わせて太鼓を叩き、太鼓から発する音の衝撃波で、迫りくるゾンビを退治するというものです。1曲の間、ゾンビを寄せ付けなければ勝ちです。
「これは子供のころ従妹の家で遊んだわ。割と得意なはずよ!」
自信満々で臨む聖良ちゃん。しかし……
「うわぁぁぁ! きゃあぁぁ! ゾンビ思ってたよりグロい! 無駄にリアル過ぎぃ! 太鼓に集中出来ない!」
阿鼻叫喚な聖良ちゃんとは対照的に静かにプレーする池田さん。気になって覗き込むと……
「⁉ 目を瞑ってプレーしている‼」
成程、「ゾンビが怖ければ見なければいいじゃない」作戦という訳ですか、しかも恐るべきことに、太鼓のリズムも正確です。曲のタイミングなどを完璧に暗記しているということでしょうか……。あえなくゾンビの餌食となってしまった聖良ちゃんに対して、池田さんはノーミスでクリアしました。彼女の完勝です。
「揃いも揃って情けねぇなぁ、次はアタシの番だ!」
三番手は竜乃ちゃんです。選んだゲームは、新感覚格闘ゲーム『宅建』です。これは相手のキャラと戦いつつ、いち早く家を建てた方が勝ちという斬新なゲームです。
「このゲームで負けたことはねえんだ、もらったぜ!」
力強い宣言通り、竜乃ちゃんの操作するキャラは見事な手際を見せ、家を組みたてていきます。しかし、池田さんの方は全く動きを見せません。
「ハッ、どうした? こりゃ楽勝だな」
すると、じっと様子を見ていた池田さんが突然動き出します。彼女の操るキャラが凄まじい必殺コンボを操り出し、竜乃ちゃんの操作キャラを瞬殺します。そして、ゆっくりと家を組み立てました。見事な逆転勝利です。呆然としている竜乃ちゃんに対し、池田さんが説明します。
「新感覚と謳ってはいるけどー、要は従来の格ゲーと一緒で相手を倒せば良いのー、一定時間経過すればゲージが貯まって、必殺コンボが簡単に出せるしねー」
「し、知らんかった……アタシの負けだ……」
うなだれる竜乃ちゃん。というか何ですかこのゲーム。
「ゲーム代はしっかりもらったけどーそれじゃ悪いからー『UFOキャッチャー一回無料券』あげるーまた遊びに来てねー」
三連敗を喫した私たちは、すごすごとゲームセンターを後にしました。余計にお金を使わされたような気がします。落ち込みつつも私は本来の目的を思い出しました。
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