第81話 これまでのような生活は出来なくなりますよ?

 先程から、爆発音が響き、ブレス中にざわめきが広がっていた。


 祭事の催しではなく、煙も上がっているため、何らかのトラブルが起きていることを誰しもが感じている。


 そんな中、アースたちは状況を把握すべく周囲の声に耳を傾けていた。


「ねぇ、様子見に行った方がいいんじゃない?」


 単発ならばまだしも、現在も爆発音は続いている。現在のブレスには多くの警備兵が詰めているのだが、これだけ長時間の異変が続くことを考えると、今いる人員ではことを収めるには足りないのではないか?


 リーンはそう感じると、皆に提案をした。


「荒事があるにしても、一度宿に武器をとりに行かないとどうにもならないな。俺とベーア師範とリーンは一度宿に戻るから、アースたちはここで待機してくれ」


 ここは特に手厚く警備されているので、アースやカタリナの安全もある程度保障される。


「わかりました、気を付けていってきてください」


 こんな時、戦闘力がないアースはじっとしているしかない。

 誰も怪我をしないように祈ると、アースは三人を送り出した。





 三人が立ち去ってからしばらく、カタリナは両手を組むと不安そうに祈りを捧げていた。


「あの三人なら強いから平気だと思うよ」


 そんなカタリナを安心させるため、アースは話し掛ける。


 彼らは伊達にAランク冒険者をやっていない。個々の戦闘力一つとっても並みの人間では太刀打ちできない強さを持っているのだ。


 アース特製のポーションも渡してあるので、怪我をしてもすぐに治癒することもできるし、武器だって普通の冒険者とは違う物を持っている。余程の相手でなければ、苦戦することはありえない。


 そんな風に考え、アースが楽観的に考えていると……。


「大変です、アースさん!」


 傷だらけになったライラが姿を現した。


「ライラさん!? どうしたの!?」


 ライラは息を切らせながらアースとカタリナの前に辿り着くと、膝をついた。


「動かないでください、すぐに治癒魔法を!」


 カタリナはライラの身体に触れると、傷口を確認し治癒魔法を唱え始めた。


「はぁはぁはぁ」


 全力で走ってきたのか、息を乱しているライラ。カタリナの治癒魔法のお蔭もあってか、徐々に呼吸を整えるとアースに縋り付いた。


「ケイやリーンに伝えてください! ラケシスさんを助けて!」


「どういうこと?」


 ラケシスの力はアースが一番よく知っていた。彼女は並外れた魔力を保有し、それこそ魔王クラスの魔法を操ることができる。


 ライラが怪我を負い、ケイたちに助力を頼まなければならないような存在など、そうはいない。


「展示会場の魔導具が暴走して、ラケシスさんが食い止めているんです」


「展示会場にあった魔導具……もしかして【魔導アーマー?】」


 アースの顔色が変わった。


「古代文明の中でも、一際厄介な魔導兵器だよ。いくらラケシスさんでも、あれに勝つのは厳しい」


 何せ、魔導アーマーは別名『魔道士殺し』と呼ばれている。動力が魔力で、魔力そのものを吸収する仕掛けも存在している。それを使われたらいくらラケシスの魔法が強力でも攻撃を通すことは困難になる。


「た、助けに行かなきゃ!」


 アースは顔を青くすると立ち上がり、急いでラケシスの救援に向かおうとする。


「お、お待ちくださいっ!?」


 ところが、次の瞬間、カタリナに強い力で腕を引っ張られ引き止められた。


「離してくれ、カタリナ! このままだとラケシスさんがっ!」


 普段見せないアースの慌てように、カタリナはぐっと唇を噛みしめると言った。


「アース様が行ってどうにかなるのでしょうか?」


 アースは普通の運動能力しか保たない平凡な少年だ。ラケシスの魔法を退け、警備兵が束になっても止められない魔導アーマーをどうにかできるわけがない。


「僕の目なら、あれの解除コードを読み解いて強制停止できるから!」


 アースははっきりとそう告げる。ここにきて、自分の能力を隠すつもりがないらしい。


「ですが、それをしてしまえば、これまでのような生活は出来なくなりますよ?」


 今までも、大きな事件がアースの周りにはあったが、それでもアースの存在が明るみに出なかったのは、周囲の人間に手柄を押し付け目立たなくしてきたからだ。


 もしここで積極的に介入し、魔導アーマーを止める功績を積めば、ロマリア聖国のみならず、アースを探している国も間違いなく感づくだろう。


「これまで、アース様はその身を隠してきたのは、もし見つかればどうなるかわかっていたからではないのですか?」


 かの国にとって、アースは裏切者であり、逃亡者なのだ。もし連れ戻されてしまえば、二度と自由に行動することも、誰かと会うこともできなくなる。


 陽の光が通らない地下室に隔離され、毎日魔導具造りをさせられるに違いない。


「だけど、このままじゃラケシスさんが怪我を……ううん、もしかすると……」


 その先を口にすることはできなかった。言葉にするとそうなってしまいそうな気がしたから…。


「だ、だけど、どうやって近付くんですか? 正直、あの魔導兵器の動きはケイでもついていくのがやっとですよ」


 ライラが何か方法はあるのかと、アースに問いかける。


「それには、皆の協力が必要になる」


 アースは真剣な顔をすると、ライラとカタリナに考えを告げた。

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