第44話 女の敵はそこで寝ていなさい
冒険者ギルドへ向かう途中にはゴロツキがたむろする裏路地がある。
治安の良い街で通っているのだが、統治する方も隅々まで監視の目を行き届かせることはできない。
人が暮らす以上はどうしてもそう言った人種は現れてしまうのだ。
「お願いだからそこを通してください」
そんな薄暗い路地から少女の声が聞こえる。
ラケシスが目を向けるとフードを被った少女がゴロツキ数人に囲まれて怯えていた。身に着けているローブは刺繍が施されていて高級品。間違ってもこのような場所の住人ではないだろう。
「つれねえこと言うなって。街の案内なら俺たちがしてやるからよ」
「こう見えても俺たちこの辺は詳しいんだぜ。付いてくればいい目に合わせてやるからさ」
「気持ちいい目にも合わせてあげるからよっ! ぎゃはははは!」
「い、嫌ですっ! 放してください。お願いですからっ!」
顔を真っ青にして拒絶するのだが、男の腕力にかなうはずもない。
少女はゴロツキたちの下心に満ちた視線を浴びて震えていると……。
「女の敵はそこで寝ていなさい」
「「「ぎゃああああああああああ」」」
いつの間にか近寄っていたラケシスは杖を取り出すと、電撃魔法を3人に浴びせた。
「えっ? あれっ?」
突然のラケシスの出現に少女はゴロツキとラケシスを交互に見る。
「あんたも、こんな人気の無いところを護衛もつけずに歩くのはやめておきなさい」
突如現れたラケシスの言葉に少女はラケシスが自分を助けてくれたのだと理解する。
「えっと……すいません。この街に来るのは初めてで道に迷ってしまったもので……」
そう言って委縮する少女にラケシスは溜息を吐くと……。
「きなさい。表通りまで連れて行ってあげるわ」
「えっ! はいっ!」
その言葉に少女は表情を明るくするとラケシスについていくのだった。
「先程は危ないところを助けていただきありがとうございました」
表通りにでたあと、そのまま立ち去ろうとするラケシスを少女は呼び止めた。
「私は教会の治癒士でカタリナと申します。お名前を教えてもらえないでしょうか?」
だが、カタリナがお礼をしたいというのでこうしてカフェへと入ったのだ。
「ラケシス。冒険者よ」
ラケシスは特に興味がないのかメニューを見ながら答えた。
「冒険者って凄いですよね。ラケシスさんは魔道士なんですか? 先程の魔法を見る限り高ランクなのではないでしょうか?」
助けてくれたこともあってか友好的に接するカタリナ。だがラケシスは……。
「私は決まったけど、あんたは?」
「あ、すいません。まだです」
カタリナは慌ててメニューを見ると注文する品を選ぶのだった。
カチャリと食器がぶつかる音がする。
ラケシスは黙々とお茶を飲みケーキを食べていた。
カタリナは先程のラケシスの態度に委縮したのか、ケーキを食べながらも居心地が悪そうだ。
実際のところラケシスは別に怒っているわけではない。だが、アースと出会うまで他人を寄せ付けないようにしていたので急に態度をかえられないだけなのだ。
「あんた、どうしてあんな場所にいたの?」
自分がカタリナを怯えさせている自覚があったラケシスは仕方ないとばかりに話題を振ることにした。
「えっと、人を探していて迷っていたらあの場所にでて、あの人たちに囲まれていたんです」
「それおかしくない?」
「えっ?」
「さっきあんた『この街に来るのは初めて』って言ったでしょ?」
ラケシスのその言葉にカタリナはコップをぎゅっと握る。
「実は探している人がどこにいるかもわからないんです。今回たまたま休暇ができたのでこの街にいないかなーと思ってうろうろしていただけなんですよ」
「ふーん。そう」
特に興味もないのか相槌を打つラケシスに。
「ラケシスさん。この街は詳しいですか?」
「……だったらなによ?」
嫌な予感がするラケシスはコップで口元を隠しながらカタリナを見ると……。
「良かったら数日護衛をしてもらえないでしょうか?」
そう言って空いた方の手を握ってくる。
「えぇ……」
ラケシスは面倒ごとに巻き込まれたとばかりに嫌そうな声を上げるのだった。
「明日から街中で護衛の仕事があるわ」
その晩、アパートでラケシスは気怠い表情を浮かべるとそう言った。
カタリナからの依頼を断ろうにも特に仕事の予定があるわけではなく、カタリナ自身が冒険者ギルドで指名依頼をしてきたからだ。
「ラケシスさんも護衛の指名依頼ですか? 凄いじゃないですか」
街の人間からの評判は未だ回復していなく、ラケシスに持ち掛けられる指名依頼は相変わらず高ランクモンスターの討伐だった。
それがここにきての護衛依頼ということでアースは自分のことのように喜んでみせたのだ。
「そうなるとお弁当を用意しなければいけませんね。街中でなら持ち運びも問題なさそうですし少しぐらいはかさばってもいいですよね?」
「ん。そうね平気よ」
なんだかんだ毎日アースの弁当を食べているラケシスはそれが当然のように受け入れていた。
「では僕はラケシスさんの依頼をサポートするために満足できるお弁当を作りはじめますね」
アースは張り切ると厨房へと篭るのだった。
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