第33話 是非同行させてください!
「冒険者ギルドで依頼を出そうと思ってるんですよ」
「それは、何か欲しい素材があるということかのう?」
食事が終わり、落ち着いたアパートの食堂でアースは軽い話題を振るつもりでそう言った。
「そうですね欲しい素材もそうなんですけど、今回は自分で収集に行きたいんですよ」
先日、アースは皆の怪我に備えてリバイブポーションを作ることにした。
リバイブポーションを作るのに必要な物が虹薔薇の他に幾つかある。
収集依頼をかけるのが手っ取り早いのだが、色々欲しいアイテムがあるので自分で採りに行きたいのだ。
「できれば口が堅くて頼りになる人がいいんですけど、そんな人は冒険者ギルドにいますかね?」
「うーん、基本的に高ランクの冒険者は口が堅いよ。問題がある人間は中々高ランクに上がれないからにゃー」
「なる……ほど?」
リーンの言葉にアースは首を傾げる。
そしてリーンを、ラケシスを、ベーアを順番に見た。
そもそもこのアパートにまともな人間が存在しているのだろうか?
「収集に付き合わせるというと護衛の依頼か? この辺りで危険な森だとしてもCランク冒険者ならなんとかなるぞ。どうして口が堅い人物が良いんだ?」
ケイは適正ランクを示しつつアースがこだわるポイントについて質問をする。
「えっとですね。実は僕『魔法の袋』を持っているんですよ」
この世界には容量を拡張できる『魔法の袋』が存在する。
この魔法の袋には実際の数十倍の容量のアイテムを詰め込むことができる。ただし内部では時間が経過するので食材などは放っておくと腐ってしまう。
だが、その便利さから準アーティファクト級の価値があり、所有している人間は他人に漏らさないようにしているのだ。
「ああ、なるほどそういうことね……」
アースの答えにケイは納得する。
実際、高価なアイテムを持っていると伝わると厄介なのだ。
街の有権者や商人、貴族なども喉から手が出るほど欲しがっているので、後ろ盾のない人間は脅しをかけられ奪われる可能性が高い。
更に、アースの『袋』は見た目は『魔法の袋』と同じなのだが、入る容量はほぼ無限な上、中に入っている間の時間経過がない。
素材を新鮮なまま保管できるので重宝しているが、世間にバレたら脅しどころではなくなる。
最悪、制作者がアースだとバレなくても殺される。バレたらあらゆる組織に追われて監禁されるだろう。
「なら俺が護衛してやろうか?」
「えっ、是非お願いしたいですけど」
ケイの申し出にアースは食いつくのだが……。
「駄目だよケイ。先に受けてる依頼があるんだから」
リーンに遮られてしまう。
「今回の依頼は別に俺はいらないだろう?」
「絶対駄目! リーダーが抜けるなんておかしいでしょうが!」
「普段からアースに世話になってるからな、ここらで恩返ししたいと思うのが当然だろうが」
言い争いをする2人に……。
「コホン。なら私が付き合ってあげても構わないわよ?」
ラケシスが咳ばらいをした。
「あっ、いえ。ラケシスさんはいいです」
だが、アースはそれを断った。
ラケシスには普通に依頼を受けてもらって杖の代金を返済して欲しかったからだ。
「じゃあ、どうするんだよ。低ランク冒険者なんてそれこそアースの情報を売りかねないぜ。下手するとそいつらに魔法の袋を奪われることもありえるんだからな」
ケイはせっかく自分たちを信じて打ち明けてくれたアースが、大切な魔法の袋を失う可能性を潰したかった。
「コホン。そこでリーンちゃんの出番だよ。リーダーのケイは抜けられないけど、今回の依頼は人数も足りてることだし。リーンはアースきゅんとラブラブ収集旅行に行こうかなと……」
そう言ってステップを踏みながらアースに近づいていくのだが……。
「あっ、リーンさんは結構です。なんか収集の邪魔されそうですから」
「そ、そんなぁ~」
いつもの塩対応でかわされてしまった。
「じゃあ、結局誰がアースを護衛するのよ? 言っとくけど私以上の冒険者なんてそうはいないのよ?」
「俺だって森のモンスターなら負けないさ」
「リーンちゃんは目が利くからね。連れて行くと色々捗ると思うよ?」
3人揃ってお互いににらみ合う。
この中の誰を選んだとしても決して納得しなさそうな雰囲気をアースは感じ取る。
そして、冷や汗をダラダラかきながら「なぜ皆僕とそこまで行きたがるの?」と考えていると……。
「ふむ、ワシと行くか? 丁度山籠もりをしようと思っておったのでな。アース殿さえ良ければなのだが一緒にくるか?」
「是非同行させてください!」
実力が確かで地の利もある。そして信頼できる。
アースはベーアと行くことにするのだった。
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