僕ハ魔王様ノ僕

おはぎ

epilogue




 これは昔々の物語である。


「お前はちっぽけで弱い。しかし美しい。飢えて今にも餓死するのなら、わしのところにおいでさない。」


 これが最初の記憶だ。

漆黒の髪と青白い裸、鋭く細められた真っ黒な瞳と喋ると見える牙が恐ろしい。髪も瞳も、薄い唇も長く鋭利な爪も黒く引き込まれそうなほど。


『ぁ……』


 喉が渇いて声が出ない。意識が混濁していたはずなのに、今ははっきりとその男の顔を眺めている。だが、声も出なければ体に力が入らない。

 指を動かすこともできず、何故自分がこんな蒸し暑いところで寝転がっているのかも覚えていない。


 さらさらと白い砂を風が舞い上げ、どこまでも続くその白に消える。


……何故僕はこんなところにいるんだ?


「なんだ、喋れんのか。小娘。」


 男は足で僕の体をひっくり返し、まじまじと僕の顔を眺める。真っ暗な空に、その男の白い顔は浮いて見える。

 場違いにも、美しいと思った。

 

 水がほしい。腹も減ってきた。おまけに目が覚める前のことが分からない。

 何も思い出せない。


「名は?」


『、……』


「なに?」


『わ……らな……』


「なんだ、名もないのか。」


 ひょいっと片手で僕を持ち上げると、男は白い砂の上を歩く。視点が高くなったことで、遠くの方に高い建物が見えた。

 風で舞い上がる砂が雪のようで、幻想的な世界を外から眺めている気分だった。


 男の顔をもう一度見上げると、赤い月の光を浴びた男の横顔はキラキラと光って見えた。


「灰の中から甦る―――」




****



「勇者一行ガ来タゾ!」


───どうやら悪者が来たようだ。




 ある日、とある村で一人の少年が誕生しました。

高齢化した村では少年の誕生はとてもめでたいことでした。

 母は少年が生まれた一年後、病気で他界してしまいました。父は鉱山で魔物に襲われ殺されてしまいました。


 闘えぬ村は魔物の標的となり、ある晩村人全員が惨殺されました。少年はその日、隣村の幼馴染みの家にいたので無事でした。


 少年は魔王に復讐するため、英雄の剣を手に入れるために幼馴染みの少女を連れて勇者の丘へと向かいました。少年は勇者の丘に刺さった英雄の剣を引き抜き、勇者になりました。

 幼馴染みの少女は魔法を覚え、魔法使いになりました。


 こうして勇者は魔王を倒すための旅が始まりました。


 勇者と魔法使いは魔王城への道すがら、様々な村に立ち寄り魔物に苦しむ人々を助けました。そして、格闘家と弓使いを仲間にして魔王城に向かうのです。

 魔王城に到着した一行は魔王の手下の兵隊を一網打尽。そして勇者一行は魔王を倒し、世界は平和になりました。






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