6. 追跡開始
◇◆◆◇
それは何処で生まれ出たのか。
ありとあらゆる種族が感情を持つに至って、それは生まれるのが必然だったのかもしれない。
悪意か無邪気さか清濁か。複雑に絡み合った情念が濁り合って形作られたのかもしれない。
最初はほんの豆粒ほどの大きさだった。
くすりと笑えるくらいの小さな細やかな悪戯を起こすくらいだった。
しかし、大陸全土を制していた”古代王国”が凋落する時、世界も
そもそも、己の出自など気にもしたことないだろう。妄執によって生まれいづるモノ、
宝物庫から脱出した
隠し通路の途中、壁の薄いところから透過で抜け出し幾つかの部屋を経て、城から飛び出して見下ろす位置にまで浮き上っている。
当初、グリムオールは此処から離れて別の都市に行くつもりだった。折角封印が解けて自由になったのにまたすぐに封じられては
(……忌々しい、どこまでも邪魔立てをする王の一族め)
グリムオールは悪態をつく。この地は
調子に乗って城の中でも奔放に振舞ったからこそアルバートに目を付けられてしまったのだが自己中心的な思考しか持たないこの悪霊は他人の所為にしか出来ない。
まあ良い、出れないなら出れないで本懐を遂げるのみである。開き直りとも取れるがそれこそがグリムオールの存在意義なのだ。
ここに来るまでに通った部屋にも
それに気付いた者達が揺り起こす感情こそが我が力の糧と成る。少しでも力を取り戻せるだろう。それに今日は催し物があるのか、多くの人の往来が上空からでも見て取れる。ではそれに便乗せしめようではないか。グリムオールは本能のままに振舞える歓喜に大きな口を醜く歪め、再び城へと引き返していった……。
◇◆◆◇
「ハッ!?」
頭の上で伸びていたミューンが目を覚ました。
「……ここはドコ?」
「目下、未知の隠しルートを進歩中であります。妖精殿」
「ワタシ、さっきから流れに流されてるんですけど」
ジト目の妹と別れて僕は隠し通路を勇往邁進している。
基本的に通路は狭く、大人で横向きやらかがみながらでないと進めないところが多い。つーか、
それはともかく通路同士で合流する部分もあるし、換気口と繋がってるところもある。今はその換気口と併用する形になってるところを四つん這いで進んでいた。
「ミューン、目覚めたなら羽灯りよろしく」
「ほいほい」
ミューンに燐光する羽を出してもらうと自身の
微かに隙間から光が洩れているので出口だろう。僕は
隠し扉が完全に開ききってから僕たちは抜け出した。服に付いた埃を軽く払いつつ、振り返って出てきたところを見るとどうやら台座が真っ二つに分かれる
「……んん?」
「なんかカッコよ!」
あれ、こんなポーズのやつあったっけ? 周りを見れば幾つか一定の間隔で同じ
……仕掛け無駄に凝りすぎだろ、いやカッコイイけど! 三百年前の職人さん頑張りすぎ、……つーか何気にコレ喪失技術じゃないよな? 今度ロット族の人に聞いてみよ。
ま、まあ気を取り直して、ここは騎士回廊だ。ヤツもいないし、もしかすると通路の途中で透過で抜けていったのかもしれない。そうなると探すのに手間がかかるな……。すぐ近くに中庭を一望できるバルコニーがあるので、とりあえずそちらに向かってみる。
近づくと誰か先客がいるみたいだ。バルコニーには簡易な卓と椅子が置かれているが、その人物は座らずに柵の方で片手で陽光を遮ぎつつ空を見上げている。黒のような紫のような色彩の織物で作られた王国公認である証の魔術師のローブを身に纏い、掲げた腕はとても肌白く、そして光に当てられて煌めき輝く長い銀色の髪から覗く、ある種族の特徴である動物のような耳。
僕は冷や汗が出てくるのを感じた。誰なのか、判ってしまったから。
何も警戒せずにバルコニーに近づいたので、向こうも気配に気付いたのかこちらに振り向いて笑みを浮かべる。目が合ったので、すでに離れることも出来ず、
僕、いや王族全員が頭が上がらないほどの傑物。エルン族の中でも上位種とされるハイエルンであり、我が国の宰相兼王国魔術師団長、シャスティア御本人との遭遇である……。
「あら、ごきげんよう。アルス王子」
あっれー詰んだかも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます