リスティノイス城 日常奇譚!

あしな

第一譚 城と双子と幽霊と

1. ある門番のいつもの場景

まえがき

よろしくお願いします。基本は一人称です。

場面転換や状況説明時は三人称気味になります。

―――――――――――――――――――――――――



「ふわあ~、うーん平和っていいっすねー」

「お前、ここで欠伸すんなよ……見えないとこでやれ、見えないとこで」


 最近入隊してきた新人騎士が、気怠そうにしている。一応俺が先輩として厳しく指導する立場なんだろうが、今は勤務として門番をしている。そして俺達の前には城へ入場する為の検閲を待っている人らで数人並んでいたので小声で注意するだけにとどめた。


 我が王城に入る為には三つの正門の許可を得られなければならない。此処は、城の第二正門だ。目上への陳情する者や貴族専属商人、何処かの使者っぽい風貌の人物などを同輩が次々と身体チェックをこなす傍ら、俺と後輩が門を守る衛兵の番をしていた。


「いやあ自分、ちょっと前まで冒険者してましたからね。あっちは戦いや動いてナンボの世界でしたから。ジッとしてるだけでお給与貰える騎士最高! 王国万歳!!」

「おま、この並んでる人達の前で誤解するような事言ってんじゃねーよ!?」


 呑気にヘラヘラしているコイツに一喝し黙ってろと流石に窘める。いやマジで誤解も甚だしいからね? 俺達が属する騎士団の訓練はとても厳しいほう……だと思う。他国の軍隊の訓練内容や強さなんか知ったこっちゃないが、この騎士団の中でもあまり武勇に優れていない俺がそこらの中級冒険者には勝てる自信を持てるくらい鍛錬を積み重ねている。


 俺達の近くで並んでいた人に会話を聞かれていたのか、さり気にジト目で見られているような気がする。騎士として舐められる訳にはいかないので、威嚇マシマシな表情を作り、威厳を醸し出す仁王立ちに少しを込めて躰を強化した。武に疎い者でも何となく威圧感を感じるはずだ。まあ此処に来るのは何かしら腹に一物を抱えている者達ばかりだろうから、これでスルーしてくれるだろう。


 隣にいる後輩が威厳をまったく感じないので台無しされている感じがするが……、お前後で部隊長に説教追加訓練して貰うからな?


「ちょっと、暑くなってきたんで日除け用に兜取ってきていいっすか?」

「ダメだ。お前絶対、全面兜フルフェイスヘルム被って立ったまま寝る気だろ……。それに暑いなら逆に兜を外したいからな?」


 コイツ、前にも全身板金鎧フルプレートの関節可動範囲の狭さを利用して剣で器用に支えながら立ち寝していたからな……。

 それ以来コイツには兜を被らせないようにしている。最近一緒に勤務しているので何かにつけてサボろうとするヤツだというのは把握しているのだ。


「しかし、こんな争い事が起きないような……いや、隣に帝国があるからそんな事はないのかな? うーん、聞く限り国土も大きくないのに何百年も治世しているのは凄いですけど、そういう処って大体貴族や騎士の腐敗が酷いイメージがあったんですよね。でもこの国はまあ清濁併せ飲むとはいかないだろうけど、何というか紀律が行き届いてる感じがするっす」


 通行待ちが疎らになってきたので暇そうな後輩がこの国の素直な感想を述べている。ただ、チラリと顔を伺うと視線をある方向から外さないようにしているのが見て取れた。


「まあ俺もしがない男爵の三男坊騎士だからお偉いさんのやっていることは判らん。だが、我が騎士団率いる団長は間違ったことが嫌いなお方だ。実直なのと女の扱いが下手なのは騎士団全員の一致だぜ! 女の扱いは副団長が追々直してくれるだろうさ。何年掛かるか皆で賭けているけどな? 朴念仁と言う輩もいるが俺はそうは思わん。屈強な騎士を不満もなく率い、共に死地に向かえると思わせる英雄だよ。そんな団長だから騎士団が腐敗するのはあり得ないな。まあ上級貴族はしているかもしれんが……いや、やっぱ無いかな? あの”宰相”がいる限り……うん、この国、安泰だわ」


 そんなやり取りをしつつも、通って行く者を怪しくないかはチェックしている。

今も貴族専属風な恰幅の良い商人が検閲を終えようしていた。


「……でも、そんな国でも怪しいヤツは来るんですねえ?」


 無気力な顔つきをしていた後輩が、一瞬鋭い目になったかと思うと検閲が終わって門を通り抜けようとした商人らしい男へ、全身板金鎧なのに音も無く近寄って行った。


「おっと、失礼ですが商人殿? そのヒゲと肌と髪、誤魔化してますよね? しかも幻術を上手く絡めてますねえ。何故そんな事をしているんです? まあ訳はゆっくり詰め所で聞きましょうかね。センパーイ、一名様ご案内でっす」


 問い詰められて青ざめた顔をした偽商人が逃げ出そうと動き出す刹那、新人が即座に関節技を決めて拘束する。周りが騒然とした中で詰め所から控えで待機していた騎士数人が駆け寄ってきた。


「お前、いつもダルそうなのに何でこう検挙率高いんだよ……」


 拘束していた……たぶん何処かの間者であろう者を同輩に引き渡し、自由になって手をはたいてた新人に驚きと呆れが混じったような気持ちで思わず呟く。俺から見ても、検閲していた同輩から見ても全然気づかなかった変装を見抜きやがった。駄目騎士っぽいんだが実績は良いんだよ、実績は。コイツが赴任してから既に何件かこういった手柄を立てているのだ。

 冒険者から転職ジョブチェンジで中途から入ってきたから、コイツのことはまだよく判っていないんだが、入隊試験の成績は普通くらいだったはずだ。いや、コイツの気性なら手を抜いていた可能性がある。厳格な騎士団長が率いる我が国の騎士団は平和であれど、厳しい戒律と日々の訓練に明け暮れている。試験も温くはないはずなんだがなあ。


「今の手柄、先輩にあげますよ。昇進で管理クラスとかなりたくないんで」

「それは別にどっちでも構わんが、武勲や手柄が男の誉れだろう? 欲はないのかよ」

「や、自分、面倒事に関わらないノンビリとした裕りある騎士スローナイトになりたかったんで。だから戦争や面倒事が起きそうにないこの国を選んだんすよ」

「うん、そんなクラスないからな? ……何今更驚愕してるんだよ。後、本音をぶっちゃけるな」


 がっくりと項垂れる後輩。いやまあ、コイツが最初に言っていたように長年戦争も起きない寧静の世であるから、今がまさに騎士にとってはスローライフ中なんじゃないか? それを言うとコイツはますます怠惰になりそうだから黙っておこう。


 騒ぎが収まり、検閲が再開された。今日はカラっとした良い日和で隣にいるヤツの無気力さが俺にも移ったのか欠伸が出そうだ。しかし無理に噛み殺さず、顔を隠しながら素直に出した。目ざとい後輩にはバレバレだったが。


「うわ、先輩だって緩んでるじゃないすか」

「うっせ。上の人にバレなきゃあいいんだよ。此処では俺、先輩、上。お前、後輩、下な。お前は俺にバレた。だから怒られるんだよ」

「なんという理不尽。先輩よりも偉くなって思いっきりユルユルしてやる」

「昇進したくないんだろ?」


 軽口言い合いながらも、門番の務めを果たしていく。


 うん、今日もいつも通り平和だな。



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