隣の席の美少女が何故か憐れむような目でこちらを見ているけど、僕には関係がないのでとりあえず寝る ―――ひとりが好きなぼっちだっているんですよ?―――
第398話 タンスの角に小指をぶつけると、無性にタンスを怒りたくなる
第398話 タンスの角に小指をぶつけると、無性にタンスを怒りたくなる
ハグをしてから30分ほどが経過して、ようやく課題を進め始めたかと安心した矢先にまた怠け始める
「ねえねえ、かまってよー」
「宿題をしない子はかまわない」
「後ろで漫画読まれたら集中出来ないし!」
「じゃあ、前で読んであげようか?」
「……鬼め」
夕奈は「ケッ」と不貞腐れながら渋々ペンを持ち、悩みに悩んで計算問題を1問解き終えると、唯斗のノートを勝手に盗み見る。
そして何やら「うわっ」と声を漏らしたかと思えば、わざとらしく「正解正解、夕奈ちゃん天才」なんて言いながらそっとノートを閉じた。
「今間違えてたよね」
「そ、そんなわけないじゃん……」
「じゃあ、確認してもいい?」
「パンドラの箱を開けるつもりか?!」
「開けるのは夕奈のノートだから」
「あ、ちょ……あっ、あそこにUFOが!」
「いや、室内だし」
「隙ありっ!」
「微塵もないよ」
生まれてもいない隙を狙って逃げ出そうとする夕奈を、唯斗はベッドの上から服を掴んで引き止める。
しかし、それでも走ろうとした彼女はバランスを崩し、左足の小指をベッドの角に思いっきりぶつけてしまった。
これにはさすがの彼も顔を歪めて手を離すが、もはや逃げる気力が残っていない夕奈はその場にバタリと倒れ込む。
「うぅ……小指取れるぅ……」
「大丈夫、くっついてるよ」
「い、痛いから触らないで!」
「そう言われると触りたくなるね」
「ほんとにやめて?!」
もちろん痛がっている人をいじめてメシウマなんて思う趣味は無いので、キッチンへ向かって氷を取ってくると、小指に当てて冷やしてあげた。
腫れたりしたら大変だし、一日歩けなくなって助けが必要なんてことになっても、時間を奪われるのは自分。事前の対策が必要と考えたのだ。
「……ありがと」
「気にしないで。それより大丈夫? 普通に痛いでしょ」
「唯斗君は知らないと思うけど、小指をぶつける痛みって生理痛と同じくらいなんだよ」
「へえ、それは知らなかった」
「つまり、生理の時はずっとタンスの角に小指をぶつけ続けてる感じなの」
「要するに?」
「痛いの痛いの飛んでけってして……」
「仕方ないからいいよ」
割と本気で潤んだ目で言われると断れない。唯斗は彼女の小指をポンポンとしてから「飛んでけー」とやってあげる。
高校生にもなって何をやってるんだと思わなくもないが、「ちょっとマシになってきたかも」と微笑んでくれるとやりがいがあるというもの。
どうせ2人きりの室内、誰が見ているわけでもないのだからと羞恥心やプライドは横に置いておくことにした。
「痛いの痛いの――――――――」
「お兄ちゃんと師匠!
「飛んで……け……」
「……お兄ちゃん?」
ベッドに背中を預けながら座る夕奈の前にひざまづき、足を執拗に撫でている兄。
そんな光景に固まった天音は、「違う、天音ちゃんこれは違うの!」と否定する言葉を聞いてなるほどと頷いた。そして。
「師匠も王様と家来ごっこしたかったんだね!」
そう言ってケラケラと笑うと、偉そうに胸を張りながら「じゃあ、天音は悪い大臣役ね!」と存在しない髭を弄りながら部屋に踏み込んでくる。
「夕奈、王様と家来ごっこって何?」
「王様は国を繁栄させるための政策を作って、家来はその政策の穴を見つけて論破するって遊び」
「……楽しいの?」
「王様になったら威張れるから楽しい」
「その言葉が既に頭悪そう」
「なっ?! と、とにかく、誤魔化すために家来役をやって!」
「何すればいいの」
「足にキスでもしたら信じるよ」
「ええ、ばっちい」
「JKの足は綺麗やし!」
その後、痛いの痛いの飛んでけーをしていたことを隠し通すため、足ではなくて手の甲ならと難易度を下げてもらい、立派に家来を演じ切るのであった。
ちなみに、夕奈は3回王様をやったところ、悪い大臣役の天音に2回も国を乗っ取られ、1回は民衆の前で斬首刑にされたそうな。
「探せ! この世の全てをそこに置いてきた!」
「……負けたのに楽しそうだね」
「んふふ、唯斗君を海に駆り立てちまうぜぇ♪」
「富も名声も力も興味無いんだけど」
「そこはがっつきやしょうよ、お兄さん」
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