第3話 夕日は彼を弄ばない
(……あれ、今何時だろう)
窓から差し込む光の色は、いつの間にかオレンジに変わっており、視覚的な温もりが増したような気がする。
もう夕方らしいが、正確な時間は分からない。壁にかけられている時計を見上げようと、視線を窓から教室の中へと移したその時だった。
「……まだ人いたんだ」
隣の席で眠っている女の子の姿が視界の端に映り込む。名前は確か……夕日みたいな感じだった気がする。思い出せないけど。
やけにしつこく話しかけてくることから、平穏な時間を脅かす危険生物として、本日より唯斗のブラックリストに新規登録された人物だ。
なるべく関わりたくないし、そもそも自分に話しかけてくる理由も分からないから怖い。寝てるみたいだし、今のうちに帰ろう。
「……鍵、返しに行く手間が省けてラッキーだ」
「って、おい?! なに普通に帰ろうとしとるんや!」
唯斗はしまったと頭を抱えた。つい口から本心が漏れだしてしまったせいで起こしてしまったのかもしれないと後悔したから。
しかし、よくよく見てみれば、彼女の目はパッチリとしていて、今の今まで眠っていたようには見えない。
「寝たフリで後ろから攻撃するつもりだった?」
「え、私がそういうことするように見える?」
「……見えないことも無い」
第一、唯斗にはスーパーパリピの生態など理解できないし、しようと思ったこともない。
ただただ、何をしでかすかわからない恐ろしい存在、それがスーパーパリピ。だからこそ、避けようと思っていたのに……。
「普通、こんなかわいい女の子が隣で寝てたら、寝顔見たりするよね? 君はどうして無反応なのかなー?」
「興味が無いから」
「な、なかなかズバッと言うタイプだね……」
思ったことをそのまま言っただけなのに、怪訝な目をされても困る。よく知らない相手には、気を使う必要も無いんだから。
「ていうか、それをやるためだけに残ってたの?」
「何か悪い?」
「いや、暇なんだと思っただけ」
「うっ……。ど、どうせ放課後に用事もない可哀想な女ですよ私は!」
なんだ、スーパーパリピだから、てっきり遊び回っているのかと思っていたけど、この様子だと放課後は自分と同類らしい。
そう思うと、唯斗の中にほんの少しだけ親近感が湧いてきた。
「安心して、僕も用事はないから」
「唯斗君に言われても安心できないんだけど……」
「じゃあ、僕よりマシだから安心しなよ」
「……それ、自分で言ってて悲しくならない?」
「全く」
「あっそ」
唯斗もようやく解放されたと安堵のため息をこぼし、カバンを持って立ち上がった。
「唯斗君、せっかくだし途中まで一緒に……」
「じゃあ、鍵はよろしくね」
「……って話聞け! というかズルくない?!」
足早に教室から立ち去る唯斗に置き去りにされ、夕陽の照らす教室に一人取り残された夕奈。
彼女は小さくため息を零すと、教卓の上にある鍵を手に取って教室を出た。
「……明日も声掛けよ」
そんな独り言を呟いて。
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