第16話 友と再戦しよう

「うおおおおおおおおおおお!」


勇者太郎は神殿内を一人駆け抜けていた。

ラスボス子の居場所は分かっていた。指輪を握ると彼女の魔力が糸のように伸びてる。その先ラスボス子がいるのは明白だった。


(待ってろ友よ!)


勇者太郎は屈強な破戒僧を一本背負いし、並みいる雑兵をバリツで圧倒していった。


(純朴可愛い系神官と結婚し、俺の許嫁さえかっさらった友よ!)


いまの勇者を止められるものは誰もいなかった。


(ラスボス子は返してもらうからな! 絶対に!)


そして神殿の奥、重要な儀式を行う祭壇の間。ラスボス子の魔力をたどり、勇者太郎はついにたどり着いた。


(この先にラスボス子はいる。それと魔法使いチャラ男も)


「ふん!」


気合一閃、勇者太郎は扉を破壊した。

本来、祭壇の間に入るには魔法のカギが必要だがそんなことは勇者太郎の知ったことではなかった。


祭壇の間には部屋を支えるための柱が等間隔で並んでおり、部屋の奥にはお約束とばかりに階段と講壇。講壇のそばには二人の姿。一人は金髪に黒い肌、くすんだ金色の瞳の魔法使いチャラ男。もう一人は紅い瞳、白い肌、整った顔立ち、どこか淡白な表情をしたラスボス子が立ち並んでいた。


「ラスボス子! お前を取り返しに来た!」

「……」

「うぇい! まさかのリトライ。マジないわ~」


無反応のラスボス子とケタケタと笑う魔法使いチャラ男。

勇者太郎は臆せず部屋に入っていった。


「お前、ラスボス子をどうするつもりだ!」

「どうする? いや、ノリだし、マジ。でも彼女マジガチ使えるからこのまま世界征服ってものありありのありじゃね?」

「お前は……!」

「正直、俺っちとしてはどっちでもいいんだけ、ど!」


瞬間、柱に隠れていた妖精宝剣フェアリオンが勇者勇者太郎に目がけ超高速で襲い掛かる。

しかし、勇者太郎は身をよじり、妖精宝剣フェアリオンの一太刀をひらりと回避した。


「まじか、あの速度を見切るなんてマジパネェわ、――――愛しき人、あのマジツヨゴーレムだしちゃって」

「……カモン、ゴーレム、タイプオートラウンダー」


ラスボス子の声に応じ、地面から30を超えるゴーレムが形成され、勇者太郎を待ち受ける。

ラスボス子さえも拘束する性能を持つ、超強力なゴーレムだ。


「うおおおおおお!!」


しかし勇者太郎は臆することなく全力で距離を詰め、ゴーレムたちを乱戦に持ち込んだ。


「チェストオオ!」


一匹目をつかみ投げ飛ばす、複数体のゴーレムが巻き込まれ姿勢を保てず転倒した。

そこにすかさず勇者太郎の背後を目がけ、フェアリオンが飛んでくる。


「そこかッ!」


背後のゴーレムを蹴り飛ばし、フェアリオンの軌跡に割り込ませる。

フェアリオンが起動を変えゴーレムを切断する。

次の瞬間、フェアリオンの隙を突き、距離を詰めた勇者太郎は己の拳でフェアリオンの側面を打ち払った。

強烈な金属音が響き、壁にフェアリオンが深々と突き刺さる。

いくら自身に移動する機能がついていたとしても、あそこまで深く刺さってしまえば誰かに抜かれない限り動くことはないだろう。


「次ッ!」


勇者太郎は止まることなく残りのゴーレムを圧倒していく。

もはやゴーレムは勇者太郎の足止め程度の役割しか果たしていなかった。


「おいおい、太郎っち、マジツヨ無双じゃない。でもこの子は俺っちにゾッコンな訳」

「……」

「――――愛しい人、こちらを向て、太郎っちに見せつけてやろうじゃないか」


そういうと魔法使いチャラ男はラスボス子を抱き寄せる。


「さあ、俺っちの目を見て、そう、魅了の魔眼。――――これでばっちり完了♪……それじゃ愛の誓いを立てようじゃないか」

「……」


ラスボス子は力なく抵抗もしない。


「ラスボス子!! くそっ」


勇者太郎は叫んだ。

ゴーレムを倒しきるまでまだ時間がかかる。


「愛しているよ。愛しい人」


そう呟き、魔法使いチャラ男の顔がラスボス子に近づく。


――――次の瞬間、ぱぁんと小気味のいい破裂音が鳴り響いた。

勇者太郎が見たのはラスボス子が魔法使いチャラ男にビンタをした光景だった


「え……」

「あなたが私を愛しても、私はあなたを愛さない」


魔法使いチャラ男は何が起こったのかわからないという顔をした。

ラスボス子はその隙に魔法使いチャラ男を振りほどき、汚れが付いたとばかりに彼と接触していたたところを手で払った。


「そんな、バカな! 俺っちの魅了はマジ絶対、完璧、ぶっすり、決まったはず!」

「知らないの? ラスボスに状態異常は効かない。特にそういう行動制限系は」

「はぁぁぁぁぁ? 無いわ、マジ無い」

「勇者太郎が深手を負ったから、傷が癒えるまでの時間稼ぎしていただけ。それじゃ」


そう言うとちょこちょこと檀上から降りようとするラスボス子。


「ちょ、待てよ。このアマ!」


魔法使いチャラ男は壇上から降りようとするラスボス子の腕を捕まえようとした。


「やめて。魅了を使わないと愛を囁けない貴方より、私に真正面から愛を叫べる勇者太郎の方が断然魅力的」

「な……!」


しかし、その魔法使いチャラ男の手を叩き落とし、ラスボス子は壇上から降りる。

そして、壇上から降りたラスボス子はゴーレムを解除し、勇者太郎の下へ駆け寄った。


「ラスボス子」

「ごめんなさい……私はまたあなたを裏切ってしまった。あなたを傷つけてしまった」

「いいんだ。むしろ俺の方こそ気を使わせてごめんな」


勇者太郎は指輪を取り出し、彼女に差し出した。


「もう一度言わせてほしい。愛してる。俺と結婚してほしい」

「私でいいの? あなたにあんなひどいことをしたのに」

「ラスボス子がいいんだ。お前と一緒ならきっと毎日楽しいに決まってる」

「ありがとう……」


彼女は左手を差し出し、勇者太郎はその綺麗な薬指に指輪をはめた。


「なああああああ、何マジメラブってんのお前ら!」


魔法使いチャラ男が叫んだ。

杖をこちらに向け、強大な火の玉を作り上げている。


「相手が本当に自分を好きかどうかなんて誰にだってわからないじゃん。いつかそのアマ、太郎っちを裏切るぜ、魅了を使わず永遠の愛なんてものは絶対にない!」

「そうかもしれない。だがな魔法使いチャラ男、彼女が真に俺を裏切るときは、俺が彼女に釣り合わなくなった時だ! 俺はそうならないように努力し続ける! ラスボス子を愛し続ける!」

「認めない! 絶対に認めない!! クラフトオブインフェルノッ!! 地獄に落ちろ!!」


超巨大な火球が迫る。それは着弾した瞬間、対象を一瞬で消し炭にする魔法使いチャラ男の最終魔法。

しかもこの祭壇の間では回避をするスペースがない。


「この……!」


勇者太郎は自身の魔力を障壁として組み上げ、真正面から超巨大火玉を受け止める。

守るべきものを背にしたときのシチュエーション補正で2倍、相手の必殺技を真正面から受ける逆境状態なので2倍、両手で障壁を作ることで2倍、ラスボス子がかわいいので10倍、締めて80倍の防御力を誇る障壁を生み出し、ギリギリのところでなんとか火球を防ぎ続ける。


「粘るネ、だがふたりまとめてここで消し炭だ! ぜ!! 二連打ッ!!」


更に同威力の火球が魔法使いチャラ男から放たれ、初弾と合流、その火力は二倍、推進力は5倍、その総威力は実に10倍!

更に大魔法の効果補正で30倍、彼らの世界を否定する魔法使いチャラ男の憎しみにより30倍、しめてその威力は9000倍に跳ね上がっていた。


「ぐっ……おお!」


じりじりと押し戻される勇者太郎。

彼らが火球に飲まれるのは時間の問題だった。


(くそ……俺は……ラスボス子と一緒に……! 一緒に居たいんだ!!)


想いとは裏腹に勇者太郎は火球に威力に圧倒され、押し返されていく。

トン、と、その時、勇者太郎の背に何かがあった。

柔らかい、でも芯のある感触が背中に伝わってくる。

それはラスボス子の手だった。彼女は勇者太郎を支えるように彼の背中に手を押し当ててていた。


「勇者太郎。私は貴方と一緒に居たい。一緒に居たいの! だから私の力を使って!」

「ああ!」


(これならば、俺はなんだってやってみせる!)


勇者太郎に力がみなぎった。


「認めない!! お前たちなんか!! 種族を違えば忌み嫌われる、俺っちの親父も、母さんもそれで死んだ!!」


魔法使いチャラ男が叫び、更に火球の威力は増す。

しかし勇者太郎は負ける気がしなかった。

80倍の威力の障壁に、ここで退けない背水の陣の効果で2倍、ラスボスと勇者の力がかけ合わさって50倍、これで8000倍、そして――――


「俺たちの……!」


ラスボス子が好きなので10倍、ラスボス子が大好きなので10倍、ラスボス子を愛しているので10倍、それとラスボス子からの想いの力で1000倍、その強度しめて80億倍!

誰にこの障壁が破れるものだろうか。

魔法使いチャラ男の火の玉は二人の障壁の前に掻き消きえた。

驚愕する魔法使いチャラ男

その隙に勇者太郎は魔法使いチャラ男に距離を詰める。


「俺たちの結婚を認めてくれぇぇぇ!!」


拳にすべての想いを込めて、ありったけの力で勇者太郎は魔法使いチャラ男を殴り飛ばした。

壁に叩きつけられた魔法使いチャラ男は気を失い、ここに勝敗は決したのだった。

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