第14話 友と再会しよう

「いよいよ、ここまで来たな」

「ええ、もうすぐよ」


勇者太郎とラスボス子は石造りの建物を見上げていた。

建物は巨大で、一見すると立派な城のようだった。

しかし名目上は神殿らしく、神を奉る装飾品が下品なほどに飾られていた。

ここは教会機関本部。王国と勇者太郎の国の不可侵条約はここで結ばれることになっていた。


「ようこそ教会機関へ。お待ちしておりました」


協会本部の入り口から神官の法衣を着こんだ男が現れ、勇者太郎とラスボス子に頭を下げた。


「ありがとう。今日はよろしくな」


勇者太郎は法衣を着こんだ男にあいさつを返し、彼に促され神殿の中へと足を踏み入れた。


中に入るとそこは広い空間だった。等間隔で巨大な柱が並び、お約束のように階段と檀上、説法に使うのか巨大な講壇が用意されていた。

神を崇める装飾品はあたりに取り付けられており、神殿内が静かならばその神聖さを引き立てるのに一役買っていただろう。

しかし神殿内はなんだか愉快な雰囲気になっていた。

勇者太郎は辺りを見渡すと神官たちが「まじぱねぇ」とか「うぇいうぇい」とか神官あるまじき言葉を使っている。


(なんだ? なにか変だ)


違和感を覚えたのは勇者太郎だけではなかった。


「ここの人たち、何かの力で操られている」


勇者太郎の袖を引っ張り、こっそりとラスボス子は勇者太郎にささやいた。


「操られている?」

「かすかだけどあの兵士にまとわりついていたものと同じ力を感じる。ここはもう敵の手中、気を付けましょう」

「……分かった」


勇者太郎はラスボス子の言葉にうなずき、あたりをもう一度警戒する。

ラフな言葉遣い、チャラチャラした雰囲気、それは勇者太郎にあの日以来あっていない友を連想させた。


「あ、太郎っちじゃんか。ウィーっす。まっじ久マジ」


柱の影からその友が現れた。

金色の髪、やや焦げたの肌、少しくすんだ金色に輝く瞳、整った顔。着こんだローブは装飾品に彩られドラゴンのような紋章を縫い付けられている。手にする長い杖には片っ端からキーホルダーがつるされて、チャラチャラ音を鳴らしている。

あの日と変わらない様相に勇者太郎は確信をもって声を上げた。


「魔法使いチャラ男!!」

「ちっす~」


気さくに手を上げ勇者太郎の言葉にこたえる魔法使いチャラ男。

あの日のことを思い出し勇者太郎は警戒を強めた。


「久しぶりだな友よ。なんでここにいるんだ?」

「おっは、友つった。太郎っちマジ優しい。心にパンダ飼ってんの?」


ケタケタと笑う魔法使いチャラ男。勇者太郎は兵士とのことを思い出し、一つの推察に至った。


「もしかして不可侵条約を結ぶ王国の使者って、お前か?」

「正解! いや~相変わらず勘がパネぇ、バレネタノーセンキュー、アンダースタンだった?」


謎のポーズをとりつつ、意味不明の言語を操る魔法使いチャラ男。

勇者太郎は彼の言葉をスルーし、あの兵士の一件を問いただした。


「一つ聞きたい、どうしてラスボス子を殺そうとした」

「ん~、ああ、マジないわ。もうだいぶ前のことじゃん、もう時効ってやつ?」

「いいから、教えてくれ!」

「うっはマジメ。ん~、そうすれば太郎っちマジギレ確定じゃん? じゃあ、やっちゃえやっちゃえって……つまりはノリ?」

「ふざけるな!」


勇者太郎は激怒した。

さすがに気分で婚約者を殺されそうになったとなれば、許すことはできなかった。

一気に踏み込み魔法使いチャラ男との距離を詰める。


ドスンと、腹に衝撃が走った。


「えっ」


勇者太郎の腹に見覚えのある剣が刺さっていた。

妖精宝剣フェアリオン、その絶大な威力は人間にたいしても有効であった。


「なん……で?」


勇者太郎は倒れた。

魔法使いチャラ男は剣を引き抜き、勇者太郎から血が大量に流れだした。


「勇者太郎! ――――カモン、ゴーレム、タイプオートラウンダー」


ラスボス子は大量のゴーレムを生み出し魔法使いチャラ男にけしかけた。

オートラウンダーは自立思考を持ち、独自の連携をもって敵を倒す彼女が生み出すゴーレムの中で最も強いゴーレムだ。

しかし、魔法使いチャラ男はそのくすんだ金色の瞳で見つめるだけで、ゴーレムたちの動きを止めた。


「そんな!」

「俺っち意識あるものにはガチ最強なわけ、てか思考があるって、このゴーレム作りこみ半端ねぇ、マジやばいわ。―――さあ、愛しき人よ。あいつ捕まえちゃって」


魔法使いチャラ男がそういうとゴーレムたちはこぞってラスボス子に振り向き襲い掛かった。

ゴーレムたちは魔法使いチャラ男の命令に従いラスボス子を拘束する。

ラスボス子も抵抗はしたものの、高性能かつ、ゴーレムたちの複雑な連携に存分に力を振るえないのか、瞬く間にゴーレムたちに拘束されて地面に倒されてしまった。


「はなして!」

「ら、ラスボス子……」


ラスボス子の危機に勇者太郎は立ち上がろうとした。


「のんのん、そいつはお涙頂戴すぎっしょ―――愛しき人よ、あいつ切っちゃおう」


そういうと魔法使いチャラ男の手にある妖精宝剣フェアリオンが起動する。そしてそれを勇者太郎に投げつけた。

フェアリオンはその意思をもって、軌道を変え、再び勇者太郎に襲い掛かる。


「くそっ……」


勇者太郎の周りを縦横無尽に飛び回り、時に袈裟切りに、横薙ぎに、正面背面問わず、フェアリオンは勇者太郎を翻弄する。

不意打ちで怪我を負っていなければ対処できたかもしれない。

しかし今の勇者太郎の体力ではフェアリオンを御する術はなかった。


「そそ、そのまま頼んだよ、愛しき人」


そうフェアリオンに指示を出し、魔法使いチャラ男はラスボス子に歩み寄る。


「俺っち、実は親父がインキュバスでさ、まさかの展開まじ仰天って感じ。俺っちの瞳は特別性で視ただけで相手を魅了することができるって寸法なわけ、しかも瞳を見れば必殺イチコロ、メッチャ強力、うっは」


何故、今そのような話をするのか、これから魔法使いチャラ男が何をしようとしているのか。

ぞくりと勇者太郎に悪寒が走る。


「やめ、やめろ……!」


勇者太郎の言葉を無視して、魔法使いチャラ男がラスボス子に近づき、ゴーレムに指示を出し、彼女を無理やり立たせる。顔を引き寄せた。


「いや!」

「んー、太郎っちって、こういう女の子が好きなわけ、ふーん、なかなかかわいくていいじゃん。そんじゃ、ま、魅了の魔眼」

「い、いや、やめて、やめてぇええ!」


ラスボス子の絶叫。

ゴーレムに拘束され抵抗ができないラスボス子はそれを防ぐ手段はなかった。

ややあって、叫び声はやみ、ゴーレムたちは砂に戻り、ラスボス子はふらふらとそこに立っていた。


「ら、ラスボス子……!」


カツンと音がした。

指輪が床に転がっていた。


「あ……」


勇者太郎は足を止めた。

立ち上がる理由はもうなかった。


「婚約を破棄しましょう、勇者太郎」


紅く宝石のような目が、とても冷ややかに勇者太郎を見ていた。

もう立っていられなかった。

その言葉は勇者太郎のに力を根こそぎ奪い、彼は力無く、膝から砕けるように倒れた。

その様子を見た魔法使いチャラ男は盛大に大声で笑った。

その声だけが、神殿内に響き渡った。

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