第2話 裏側を探した日
「えーと裏側裏側」
その日、俺は裏側を探していた。
裏側は裏側で、文字通り、物をひっくり返すと出てくるそれが裏側だ。
俺が探している裏側もその裏側なのだが、普通の裏側かと聞かれると違うような気がしていて、言葉にするなら「空間の裏側」とかそういうものになるのだと思う。
「どこだ裏側」
裏側はない。いつもは頼まなくても出てくるのに今日に限って裏側がない。
「おかしいな……」
部屋に転がっているのは表側のしかばねばかり。要するにゴミだな。コンビニ弁当の空き容器とかそういうのだ。
え、捨てろって?
色々と事情があるんだよ。例えば部屋の床が見えてると落ち着かないとか。
ゴミ屋敷やめろ?
返す言葉もございません。
それで俺は裏側を探してるんだ。いや表側のしかばねを部屋に転がしてることと裏側を探してることにはあまり関係はないというか、実際はあるのかもしれないが、関知してない。その辺はあんまり考えなくてもいいことになってる、たぶん……たぶん。
とにかく裏側が見つからない。仕方がないので俺はしかばねをひっくり返した。
裏側?
だがそれはただの表側で、コンビニ弁当の容器なんかはどこから見てもいいようになっているので裏側もきちんと意味のある「表側」になっているんだ。
俺はため息をついてしかばねを元に戻した。
戻しても戻さなくても一緒だとは思うが、こういうのは気持ちが大事なんだ気持ちが。
戻すくらいなら捨てろよ?
おっしゃるとおりでございます。
とにもかくにも裏側なんだ。それがないと俺は困ってしまう。
何に困るか?
ちょっと過去の処理に困っていてな。こぼれてるぶんを裏側に突っ込んで処理しようと……
はっ。
聞いたな?
俺の闇稼業を。
いや、他人の過去じゃなくて俺の過去だから別に闇でもない気はするし、法に触れるようなことはしてない。はず。
あ、でもどうだろう。最近はマザーコンピューターがなんでも法に触れる判定出してくるから微妙なのかな。
まあ引きこもってさえいればそれも関係ない話だし、蝶やら何やらとも関わらなくて済むし問題ない。
はず。
俺の話は曖昧語尾が多すぎる。いやそういう性格なんだよたぶん。ほらまた曖昧語尾が入った。曖昧語尾を入れるやつは自信のない性格だという。そりゃそうだよ自信がないから溢れた過去を裏側にポイしようとしてるんだし?
そんなことはいいんだ。
とにかく裏側を探さないと。
「呼んだか」
「う、裏側……じゃない、お前は誰だ!?」
顔を上げた目の前に突如黒ずくめの怪しい男が現れたものだから俺は驚いてしまった。
「人の家に勝手に入ってくるとか泥棒だぞ」
「そうか、すまない」
「誰だよお前は」
「我は裏側」
「えっ……」
裏側と名乗った男はそれ以上言葉を続けずに立っている。
と。
「そして僕は表側!」
後ろから大声がして振り返ると謎の白ずくめの金髪青年が立っていた。
「えっ……本日不法侵入者二名ってことか?」
「不法侵入者とかひどいなあ。僕たちは表側と裏側、君のね」
「いやわけがわからない。まあ現代なんておしなべてわけがわからないけどお前たち二人は群を抜いてわけがわからない」
「まあまあ。君も現実と向き合いなよ」
「現実と向き合いたくないからこうして裏側を探してたんだろ」
「過去をよこせ、葬ってやろう」
「えっえっ」
そう言って裏側と名乗った男は俺の手から過去を取り上げ黒ずくめのマントの中に、
「過去、消えた!」
「裏側のマントはブラックホールめいてなんでも入るからねー。でも僕もすごいよ! なんでも白日の下に晒しちゃう!」
「地獄か?」
「やだなあそんなに褒めないでよぉ」
「褒めてない」
「ん?」
「え、だから褒めてな……目、怖っ」
「僕は明るい表側、目が怖いなんてことあるはずないじゃん」
「あるだろ……」
「え?」
「表側、主をいじめるのは大概にしてやれ」
「えっ俺って主なの?」
「我ら二人はお前の裏側と表側なのだから、お前が我々の主なのは間違いない」
「えっ……ご飯とかどうしよう」
「裏側と表側はものを食べない」
「えっそれ……大丈夫なのか」
「人間ではないからな」
「人間じゃないなら何なんだ」
「さあな、自分で考えろ」
「想像力を働かせるのは大事だよ、俺くん!」
「何だその呼び名」
「俺俺って言うから俺くん。気に入らない?」
「気に入らない……」
「じゃあなんて呼んでほしい?」
「え」
呼び名。
長く一人でいたのでそんなことは考えたこともなかった。
呼び名、呼び名、名前。
俺の名前は何だっけ。
■■■………?
「特に希望がないなら俺くんって呼びまーすけってーい」
「おい」
「主に拒否権なし!」
強引だなこの表側……。
そんなこんなでそれが俺と裏側・表側との出会いだった。
え、よくわからない? 安心しろ、俺もだ。
確かそれが■頃で。
そうして困った毎日が今も続いているんだな。
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