第5話 婚約破棄宣言の結果待ち
色とりどりのお花が咲いている庭園を抜けるとそこには、王族の居住区がある。
王宮の奥の奥。
一般の貴族たちは、原則立ち入ることが出来ない。
キャロルもその内、王族の一員としてこちらにお部屋を賜る予定で準備が進められていた。
当事者なのに、私達はその話し合いに参加できないんだよね。
そう思いながら、チラッとクラレンスを盗み見る。
ものすごく、怖い顔をして紅茶を睨んでいる。
いや、睨んでいる訳じゃないんだろうけど……。
テラスでお茶でもしてなさいと父から言われて座らされたのだけど、目の前のクラレンスが怖くてお茶どころではない。
「毒は入ってないぞ」
突然、クラレンスから言われて何のことだかわからず。
顔を上げてしまった。
私を睨んでる。
やっぱり怖い。
キャロル。よくこんな人と一緒にいたよね。それとも昔は仲が良かったとか……。
「あんたがそんな怖い顔してるからだろ? クラレンス」
この声って……。
振り向いたら昨日屋敷まで送ってくれたダグラスがいた。
目の前のカップをとって、いきなり紅茶を飲み干すと、私の方を見て笑ってくれた。
「キャロル嬢が来てるって聞いて、心配になって来て見たら……。なに怯えさせてるんだよ」
そして空になったカップを置きながら
「これでマナー違反じゃ無いよな」
と言った。
あっ、そっか。出されたものを飲まないのはマナー違反なんだ。
昨日は自分で動いてなかったからなぁ。意識したらキャロルの記憶は入って来るんだけど。
クラレンス、そっぽ向いてるし……。
「キャロル嬢。大丈夫だよ」
ダグラスが優しい顔で言ってくれた。ちょっと、ホッとする。
「ふ~ん? キャロルだって、私より好きな奴がいるんじゃないか」
クラレンスが皮肉っぽく言ってきた。なんかイヤだな。そんな人を馬鹿にするような言い方。
そう思ったのは、私だけじゃなかったみたい。
ダグラスとクラレンスのケンカが始まってしまった。
大声で怒鳴り合ってて怖い。
「問題をすり替えるなよ。昨日、あんたに怯えて泣き出したから、家まで送っただけだろう? 護衛の騎士も一緒に連れて行ったんだ。何もやましいことは無い」
「はぁ? 泣くはずがないだろう。あれしきのことで」
そう言ってクラレンスは、私の方を見た。そのまま絶句している。
怖くて涙が出る。男の人の怒鳴り声なんて初めてだもの。
私は、耳をふさいでぽろぽろと涙を流していた。
もうヤダ。こんな世界。お母さん、助けて。怖いよう。
今まで、こんな怖い事無かった。
心臓は痛くて不安はあったけど、病院のスタッフの人も優しかったし。
男の人だっていたけど、大声なんて出さなかったもん。
「キ……キャロル嬢?」
ダグラスが気遣うように声を掛けてくれるけど、私の体はビクッと怯えた反応しかしなかった。
「え……っと。ごめんね」
なるべく優しい声を出そうと努力してくれているみたい。
「…………悪かった」
クラレンスの気まずそうな声も聞こえた。
いつの間に用意したのだろう。侍女がぬれタオルを渡してくれる。
化粧をしてたことを思い出し、私は押さえるように涙を拭った。何か視線を感じる。
視線の方を見ると二人が私の方をじっと見ていた。
クラレンスも、もう怖い顔をしていない。
「別人だろう? これは……。少なくとも、私の知っているキャロルは、昨日の事くらいで泣いたりしない」
「だけど、広間から追いかけてたけど、入れ替わってなどいないぞ」
クラレンスもダグラスもボソボソ話してる。
小声で話してても、聞こえてるからね。
中身は……入れ替わっちゃったよね、私。
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