お姫様の恋 ~ハーボルト王国 王室に嫁いだ姫君たち~
松本 せりか
見た目は17歳、中身は12歳の悪役令嬢
第1話 始まりは、悪役令嬢の断罪シーンから
何だか焦っている男の人たちの声がしている。何?
『早く。早く』
『待て! まだ
『このままでは由有紀の魂が消滅してしまう』
『早くこっちへ。引きずり出して、入れてしまおう』
何? 何を引きずり出すって?
『大丈夫だよ。由有紀。私に任せて……大丈夫だから』
え? 何? 何なの? 真っ暗で何も見えない。
だけど、誰かが私を包み込むように抱きしめられている感覚がある。
次の瞬間何かから出てしまった浮遊感を感じた。
上も下もない空間に放り出されたみたいに。
だけど何かに包み込まれていて、不思議と怖い感じはしなかった。
何だかこのまま眠ってしまいそう。
そう思ったとき、強い光が私を包み込んだ。
眩しい。目が開けられない。
その光がおさまった時、私は見ず知らずの所に立っていた。
ここはどこ?
何だか見覚えがあるような……。
直接でなく何かの画面越しに。
そう煌びやかな大広間。
西洋のお城の中みたいな、キラキラと目映いばかりの豪奢な造りの広間。
私の中の誰かが、ここは王宮の奥。王族の居住区だと告げている。
なんで私はここにいるの?
って言うか、私の中に誰かいるの?
目の前のお伽噺にでも出てきそうな、緩くカーブが掛かった幅広い階段がある。
その階段を金髪碧眼、見目麗しいこれぞ王子様といった感じの男性と、その男性に寄り添うように小柄でどこか小動物を思わせるような可憐な女性が降りてきた。
王子様の名前はクラレンス・ハーボルト。このハーボルト王国の王子様だと、私の中の誰かが教えてくれた。
なんだか、睨みつけられている。怖い。
綺麗な顔だからか、余計に怖い。
なんで? 初対面なのに……。なんでそんなに睨みつけるの?
『大丈夫。私が変わるから』
男の人の声がして、私は第三者になった。
丁度、少し上から自分を見ている感じ……って、だれ? この女性。私じゃない。
「キャロル・アシュフィールド。申し開きなど聞かぬ。この婚約は破棄させて貰う」
いきなりの王太子のその言葉に、周りにいた貴族や侍女、近衛騎士達はざわついていた。
だからキャロルって誰よ。私は斎藤由有紀なんだってば。
声にならない声を上げている内に、クラレンス王太子殿下とその横に寄り添う女性リリー・ブライアントが階段を降りきって広間に立つ。
リリーは、少し儚げで、怯えるように目を潤ませて、キャロルを見ていた。
「キャロルを連れ出せ」
王太子が命令したら、その場にいた近衛騎士達がわらわらとキャロルの周りを取り囲んだ。
怖い。代わってもらって体の上に浮いているはずなのに、私が取り囲まれているみたい。
その内、近衛騎士の一人がキャロルの腕を掴もうとした。
「無礼な!」
その手をバシッと払う。
「わたくしに触らないで! 一人で歩けます」
その場の近衛騎士の動きを完全に止めた。
すごい。こんな状況なのに毅然としているわ。
キャロルは王太子の方を見ている。
その顔には、笑みをたたえ優雅な所作で礼を執る。
そうして品格の違いを見せるように広間を颯爽と出て行った。
廊下を歩いている内に、いつの間にか私はキャロルという女性の体の中に戻っているのに気が付いた。
手が……体が震えている。怖かったんだ、やっぱり。
だってあんな悪意。私は向けられたこと無いもの。
夢なのかな……。
夢なら、早く目覚めたらいいのに。
歩こうとしても足が震えて前に出ない。
無理に歩こうとしたら、前のめりに倒れこんでしまった。ドレスのおかげでいたくなかったけど……。
どうしよう。怖い。このまま目が覚めなかったらと思うと。すごく怖い。
だって私、思い出してしまった。
見たことあるはずだ。これって、昨日まで隣のベッドのお姉さんに借りてしていた乙女ゲームの悪役令嬢の断罪シーンだもの。
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