第10章 3 グングニルの槍

「グワアアアアアッ!!」


 恐ろしい咆哮を上げながら黒い靄はみるみるうちにフリードリッヒ3世から

立ち上り・・・完全に靄が身体から抜け出すと、どさりと彼は床に倒れ込んだ。

その姿は完全に元のフリードリッヒ3世の姿に戻っていた。


「ウッウーッ!」


その姿を目撃したオスカーが床の上に転がされたまま激しく暴れた。


《 アイリス・・・お、お前・・・一体俺に何をした・・? 》


黒い靄は揺らめきながらこちらを見ている。


「ロキ、いつまでその靄をまとっているつもり?もう貴方の正体は完全に私に見抜かれたのよ?その証拠に・・貴方の操り人形にされていたタバサの呪縛が解けたみたいよ?」


私はタバサの方をチラリと見ながら言った。タバサはいつの間にか床の上に倒れてぐったりとしている。さるぐつわに両手両足を縛られたオスカーはなすすべもなく私を凝視しているが・・・その顔は苦痛にまみれていた。


一方、ロキの方は―。


《 ぐ・・、お、お前は・・・一体・・・。 》


徐々に靄が晴れていき・・ロキの姿が現れた。


「ロキ・・・。」


私はじっとロキの姿を見た。彼は天界にいた時とはすっかり姿形が変わっていた。黒い服に身を包み、背中から生えている翼はまるでカラスのように真っ黒であった。袖の無い服から伸びた手足、顔には赤黒いまだら模様が浮き上がっている。中でも一番特徴的だったのは頭からまるでバフォメットのような角を生やしている事だった。


「ロキ・・貴方は完全に・・・闇に堕ちてしまったのね・・。」


するとロキが苦しそうに呻いた。


《 や・・やめろ・・その名を呼ぶな・・か、身体から力が抜けていく・・・。 》


ロキは苦しそうに呻き・・・玉座にドサリと座った。するとロキが座った途端、黄金に輝いていた椅子が一瞬でまるでススで焼け焦げたかのように真っ黒に染まった。

大分ロキの力弱まっている・・。私はさらに追い打ちをかける事にした。


「ロキ・・・『エルトリアの呪い』なんてものは初めから存在しなかったのでしょう?貴方自身が自らウィンザード家に呪いをかけ・・代々歴代国王に憑りついて呪いをかけていたのね?そしてオスカーの魂を何度も何度もこの世に蘇らせ・・神の罰を受けて転生し続けてきた私を・・殺させてきたのでしょう?」


そう・・たとえ女神の力を失ってしまっても、記憶を取り戻した私には・・全てが分かる。元凶は・・・ロキのせいだったのだ。ロキ自身がウィンザード家に呪いをかけ・・自らを召喚させた。そして代々国王に憑りつき・・何世代にわたり・・ウィンザード家を・・何度も転生してきたオスカーと私を苦しめ続けてきたのだ。


《 だ・・・黙れ・・・・俺は偉大なる悪神・・ロキ・・・。たかが人間ごときが俺を・・どうにか出来ると思っているのか・・? 黙ってお前は俺の物になれば良いのだ・・・。 》


やはり・・そうだ。私が女神リオスだったと言う事は彼はもう何も覚えていない。私に対する執着心だけが深い記憶の中に残されているのだ。


「いいえ・・断るわ。私は・・・オスカー様の物だから。」


そしてオスカーを見る。オスカーは・・私をじっと凝視していた。


《 また・・・俺の前でそのような事を口にするとは・・・どうしても俺の物にならないのなら・・いっそ・・! 》


ロキが右手を差し出した。するとその手には槍が握り締められている。


《 これは俺が作り出したグングニルの槍だ・・・これで身体を貫けば・・・人間等一瞬で粉みじんになる。さあ・・選べ。この俺のものになるか・・それともこの槍で殺されたいか・・・。 》


どんなことを言われても・・私の答えは一つしかない。


「嫌よ。私は・・・ロキ。絶対に貴方の物にはならない。」


すると、ロキが叫んだ。


《 俺の・・俺の名を呼ぶなーっ!  》


そして槍を私に向けて投げつけてきた。


「ウーッ!!」


オスカーが必死でもがく姿が、目に映った。


「アスターッ!!」


私は・・アスターの名前を叫んだ―。



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