第8章 13 邪眼の力

「あら・・何よ。その反抗的な目は・・本当に気に入らない女ね・・いつもいつも私の邪魔をしてきて・・。」


「い、いえ・・別に私はそんなつもりは・・・。それに私は一度も貴女の邪魔をしたつもりは無いわ。」


ベッドから起き上がると、私は言った。


「ええ・・確かに貴女は何も覚えていないでしょうけどね・・私には分かるのよ。こことは違う次元・・別の世界・・いつも貴女は私の傍にいた。そして・・・必ず私の好きになった相手は・・アイリス!貴女を選んできたのよ!」


タバサは私を指さしながら言った。


「だから・・・取引したのに・・・。私の大切なものと引き換えに・・『邪眼』を手に入れたはずなのに・・・なのに・・何故よっ!何故・・私から大切なものを奪っていくのよ!」


「・・!」


私にはタバサの言葉の半分は理解できたけれども・・残りの半分は何を言っているのか理解出来なかった。恐らくタバサは前世の記憶を持っているのだろう。だけど、私はタイムリープする前の世界ではタバサからオスカーを奪われているのに・・・?

私の反応をどう取ったのかは分からないが、タバサは小さく笑った。


「フフフ・・・・わけが分からないという顔をしているわね?そうよ、私は・・・選ばれた人間なのよ。貴女のようなただの人間には分からないでしょうね・・・。それなのに・・オスカーは私を選ばないなんて・・・!」


タバサは私を睨みつけると言った。


「私のこの『邪眼』はね・・・相手を意のままに操る事が出来るのよ?そう、例えばこんな事もね・・・。」


言いながらタバサは私の目を見た。


「!」


途端に身体が硬直する。


「さあ・・アイリス。窓へ向かって歩きなさい。」


タバサが私に命じる。すると・・・私の意思とは無関係に足が勝手に窓へ向かって歩きだして行く。


「あ・・・。」


「そうよ・・・そのままバルコニーへ向かいなさい・・・。」


呪詛のように聞こえてくるタバサの声にどうしてもあがなう事が出来ない。


「や・・・やめて・・・タバサ・・・。」


私は必死でタバサに言うが、タバサは意地悪そうな笑みを浮かべ、腕組みしながら黙ってこちらを見ている。


「く・・・っ・・。」


タバサの呪縛から逃げたいのに、私の思考と動きが一致しない。じりじりと足が前へ前へと動いて行き・・・とうとう私はバルコニーまで出てしまった。

外はいつのまにか雨雲に覆われ、風が強く吹き始めている。風に揺れてザワザワと動く木々が私の恐怖をあおる。

そしてついに私はバルコニーの手すりまで辿り着いてしまった。


高い・・・!


最初に下を見下ろした時、あまりの高さにめまいを感じた。この部屋は驚くほど高い階にあったのだ。恐らく3階以上は上の階なのかもしれない。


「どう?バルコニーから下の眺めは。」


背後で声が聞こえたので驚いて振り向くと、いつの間にかタバサがバルコニーへ出ていた。


「タバサ・・・一体・・・私に何をさせるつもりなの・・・?」


声を震わせながらタバサを見つめた。


「そうねぇ・・何をして貰おうかしら?本当は陛下に貴女を引き渡すように言われているのよね・・・第一貴女はアンソニー皇子様の婚約者だし・・・。」


「!」


私の身体から冷や汗が流れ落ちる。


「でも・・・今ここにいるのは私と貴女の2人きり・・・誤って貴女がバルコニーから落ちても・・ただの事故だと思うでしょうね・・・。」


「ま、まさか・・・。」


するとタバサはフッと笑った。


「どうやら貴女はレイフの様に私の邪眼を解く事は出来ないみたいね・・。なら尚更都合がいいわ・・。」


そしてタバサは冷たい声で言った。


「ここから飛び降りさない、アイリス。」


「!」


それだけ言うと、タバサは背を向けて部屋の中へと入って行く。


「あ・・・。そ、そんな・・・。」


私の身体は私に意に反して、手すりに両手をおく。


そして真下を覗きこみ・・・


そのまま真っ逆さまに下へ向かって落ちて行く―








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