第8章 2 新たな王宮潜入計画
翌朝―
パンに野菜スープ、ミルクという質素な食事を部屋で取った私たちは11時に王宮へ向かう事にした。
隠れ家の前で町民の姿に扮したシモンが荷台の布カバーをはがしたので、私は顔を上げた。
「アイリス様・・・窮屈でしょうか少しだけこの荷車で隠れていてください。」
荷台には様々な品々と共に並べられた樽があり、その中の一つに隠れている私に囁くように言う。
「ええ・・私なら大丈夫。それより貴方達の方が心配だわ・・・。」
私はシモン、アルマンゾ、ヴィンサント、ヘルマンそしてユリアナとアドニスを見渡すと言った。
彼らは全員フードを目深に被り町民やあるいは農夫の恰好をしている。これから私たちはこの姿で王宮へ向かう手はずになっている。
実は翌朝緊急会議が行われ、やはり私とオスカーを交換すると言う案は私の身を案じ、全員一致で取り下げられたのだ。その代りに城へ届け物をする町民と農夫の姿になりきり、城へ潜入する方法を取ることに決定した。
他の仲間たちは一足先に王城へ向けて別のルートで向かっている。そのルートは地下道を通り抜けて進む為、道が細く険しいので大勢で向かうのは難しいそうだ。
心配そうにしている私を安心させる為か、農夫に扮したアルマンゾが言った。
「大丈夫です。幸い我らの顔は殆ど王宮兵士達には知られていないのです。絶対にばれる事はありません。ただ心配なのはアドニスです。」
アルマンゾは髪を黒く染め、付け髭をしたアドニスを見ると言った。アドニスは農夫の姿をしており、麦わら帽子をかぶっている。
「大丈夫です。いざとなればどんな役にもなり切れる自信があります。」
アドニスは大まじめに答える
「中々似合っていますわ、アドニス様。」
ユリアナがクスクス笑いながら言う。ちなみにユリアナは町民の姿をしており、頭には頭巾をかぶり、髪は頭巾の中に入れている。
「それでは・・・行きましょう。」
シモンに促され、私は頷くと樽の中にしゃがみ、上から布カバーを掛けられた。
ガタン
荷台が大きく傾き、やがてガラガラと振動が下から響いて来た。私は樽の中に身を潜め、祈った。どうか・・・無事に王宮に忍び込むことが出来ますように・・オスカーを助け出す事が出来ますようにと―。
ガラガラガラガラ・・・・
あれからどれくらい時間が経過しただろうか・・昨晩は緊張のあまり良く眠れなかった事もあり、寝不足気味だった私はいつのまにかウトウトしていたようだった。
突如ガタンと音がして荷台が激しく揺れた。
「!」
私は慌てて目を覚ますと辺りの気配を伺った。外で話声が聞こえて来る。
「止まれ!お前たち・・・何所へ行くつもりだ?!ここから先は王城へと続く道だ。何の用があってこちらへやってきたのだ?!」
「はい。私たちは自由都市『リーベルタース』に住む町民と農夫です。今日は王宮で注文された品をお届けに参りました。」
声色を変えているが・・・あの声はシモンだ。
「何?荷台の中身は何だ?」
「麦と大麦に野菜・・そして織物と香辛料を積んでおります。」
「ふん、そうか・・・中を改めさせて貰うぞ。」
え・・?私の身体から血の気が引く。そしてバサッと布が取り払われた音がする。
「ふむ・・・確かに野菜やら麻袋が乗せられているが・・・・この樽は何だ?」
ドキッ!
思わず心臓が跳ね上がりそうになる。
「それは私達が作ったワインでございます。とても良い出来に仕上がりましたので是非とも王宮に献上させて頂こうと思い、お持ちしました。」
その声はユリアナだ。
「そうか・・・では念の為に中を改めさせてもらうぞ?」
な・・中を改める・・?まさか樽の蓋を開けるつもりでは・・・。私の身体に緊張が走る。
そしておもむろに樽に手がかかり・・・乱暴に蓋をこじ開けられた―!
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