第4章 11 オスカーの本心
その時、油断していた私の頭の中にオスカーの思考が流れ込んできた。
< アイリス・・俺はお前が愛おしい。ずっと・・お前に恋していた。お前は・・この俺をどう思ってくれている?赤毛の俺を恐れていないのだろうか?誰か愛する男でもいるのか?あのレイフとかいう男は・・・お前の何なのだ・・? >
オスカーの本心を知って、私は思わず頬がカッと熱くなってしまった。前世の世界を引きずっている私はどうしてもオスカーの事が信用出来ずにいた。けれど、今目の前にいるオスカーは・・・私の事を愛しているんだ・・・。
「アイリス・・?どうした・・?」
オスカーは私に心を読まれているのを知らないので平然としているが、オスカーの気持ちを知ってしまった私は平常心ではいられらなかった。
「い、いえ・・・何でもありません。」
赤い顔をしている私に気づいたオスカーは優し気にフッと笑うと言った。
「アイリス、急ごう。お前の両親にはもう伝令でお前の無事を知らせてあるが一刻も早く会いたがっているはずだからな。」
そして私たちは再びイリヤ家の城を目指した―。
「アイリスッ!」
城へ着くと正面口のホールの真正面に続く階段から真っ先に駆け下りてきたのは母だった。母はドレスの裾をたくし上げながら私に走り寄ってくる。その顔は今にも泣きそうだった。その後ろには父がいる。
「お母様っ!」
私も駆け寄ると母は私をかき抱くようにしっかりと抱きしめた。
「アイリス・・・私のアイリス・・・良かった・・・無事に戻ってきてくれて・・・。」
そしてすすり泣いた。母の熱い涙が私の肩先を濡らす。ああ、私はこんなにも母に愛されている。70年前・・私が捕らえられた時、母は一体どんな気持ちだったのだろう?
「お母様・・・・。」
私も強く母を抱きしめ返した。
「アイリス・・・。私にもお前の顔を見せてくれるかい?」
背後で父の声が聞こえた。振り向くとそこには酷くやつれた様子の父の姿があった。
「お父様・・・。」
私は母からそっと離れて父の顔を見た。
「アイリス・・。お前の事をどれだけ心配したことか・・・。 」
そして父も私を強く抱きしめると言った。
「お前がフリードリッヒ3世に囚われた話はオスカー様の伝令で知った。だが・・・助けに行きたくても下手に動くことが出来なかったのだ。何故なら相手は王族。兵を動かそうものなら反逆罪に問われる。オスカー王子が約束してくれたのだ。必ずお前を私たちの元へ連れ帰ってくるので待っていてほしいと・・・!」
え・・?
「オスカー様が・・?」
私はその言葉に顔を上げて父の肩越しにオスカーを見た。オスカーは私達親子から少し離れた場所に立ち、じっと私の事を見つめていた。
「それでは無事にアイリスを城へ連れて帰る事が出来たので・・・俺はこれで失礼しる。」
オスカーは頭を下げるとエントランスから出て行った。駄目・・・!このまま彼を行かせては・・っ!そう思った私は父の腕をすり抜けるとオスカーの後を追った。
「待ちなさいっ!アイリスッ!どこへ行くっ?!」
「アイリスッ!」
背後では父と母の私を呼ぶ声が聞こえたが、今はその呼びかけに答えず、私は必死でオスカーの後を追った。
「ま・・待ってくださいっ!オスカー様っ!」
オスカーはもう扉の外に出ていた。イリヤ家の城の門に続くアプローチを歩く後姿を私は追った。
「オスカー様っ!」
「アイリス?」
追いすがる私の声にようやく気付いたのか、オスカーは振り向いた。その矢先に私は誤ってドレスの裾を踏みつけてしまい、前のめりに倒れそうになる。
「キャッ!」
「危ないっ!」
オスカーは駆け寄り、私を抱きとめた。
「あ・・・ありがとうございます・・。」
顔をあげてオスカーを見上げると、彼の顔は一瞬苦し気にゆがみ・・次の瞬間、私は強く抱きしめられていた―。
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