第4章 8 戸惑い

カラン


ドアに取り付けられたドアをオスカーは肩で開けながら靴屋の中へと入って行く。


「あ・・あの、オスカー様。」


「何だ?」


「降ろして頂けますか・・・?1人で歩けますので・・・。」


「いや、駄目だ。アイリス、お前はまだ裸足なのだから。靴を買って履いたら降ろしてやる。」


「ですが・・・。」


正直に言うと、私は今の状況に困っていた。ここはお店の中なのにオスカーは私を抱き上げて、店内を見て回っている。そして私は落ちないように彼の首に腕をまわしているのだが、指輪をしている腕でオスカーに触れる事になるので、油断をしているとオスカーの思考が流れ込んできそうで・・・何故か今のオスカーの心を読むのは気が悪い気がしてならなかったからだ。

店の中にはずらりと棚が並べられ、女性用靴、男性用靴、そして子供の靴と棚がわけられている。

私はその時、入口の壁際にベンチが置かれていることに気がついた。

そうだ、あのベンチに座らせて貰えば・・・。


「あの、オスカー様。」


「何だ?」


オスカーは私の瞳をじっと見つめた。あまりにも視線が近く、つい頬が赤くなってしまう。


「どうした?アイリス?」


「い、いえ。あの、オスカー様、入口の傍にベンチが有りますので、そこに座らせて頂けますか?その・・・いつまでも私を抱きかかえておられたら・・お疲れになるでしょうから。」


「そうか?別に俺は構わないが・・・まあ、お前がそう言うならベンチに降ろそう。」


オスカーはクルリと向きを変えるとベンチの方へ向かい、私を椅子の上に降ろすと言った。


「アイリス、ここで待っていろ。今店主を呼んでお前に合う靴を選んで貰うからな?」


オスカーはごく自然に私の頭を撫でるとカウンターへと向かって行く。


「・・・・。」


私はオスカーにどのように対応すればよいのかもう分からなくなってしまった。

入学式の時に会ったオスカーと今のオスカーは同じ人物の様に思える。

しかし、式の翌日に会ったオスカーは明らかに人格が変わっていた。そして陛下が化けていたオスカー・・・。


「一体どういう事なの・・・。」


この先もまた別のオスカーが現れるのだろうか?もし・・またあの恐ろしいオスカーが目の前に現れたら?

膝を抱えて、思わずため息をついてるとオスカーが店員を連れてこちらへ歩いて来た。


「おお・・・貴女はアイリス・イリヤ様ではありませんか?」


その若い店員は私を見ると深々と頭を下げてきた。


「アイリスに合いそうな靴をすぐに選んでくれ。早くアイリスをイリヤ家に連れて行かなければならないからな。」


オスカーの言葉に、店員は頭を下げると私の前に跪いた。


「アイリス様、おみ足を失礼致します。」


「はい。」


私は足を差し出すと、店員は丁寧に足のサイズを測り、メモに書きだした。


「どうだ、足のサイズに合いそうな靴はあるか?」


「はい、勿論ございます。すぐに何種類かご用意致しますので、このままお待ちください。」


店員はすぐに頭を下げると去って行く。


「あの・・オスカー様・・。」


「何だ?」


振り向いたオスカーに私は尋ねた。


「私を・・送り届けた後・・オスカー様はどうされるのですか・・?まさか・・城へ戻られるのですか?」


「・・・さあな。」


オスカーはまるで他人事の様に言う。


「さあなって・・・。」


するとオスカーは私の隣に座ると言った。


「城には・・・俺の密偵を残してあるんだ。その状況次第によっては城に戻るし・・戻らないかもしれない。」


「密偵・・?」


「それにあの集落の事も気になるしな。あいつらの安否が気になる。」


「そ、そうです。オスカー様には・・・聞きたいことが山ほどあるんですっ!」


気付けば私はオスカーのシャツを掴み、彼の顔を見つめていた―。

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