第3章 5 昼休み

 授業は3限目迄終わり、昼休みとなった。


「アイリス様、もしよろしければ一緒にお昼に参りませんか?」


ミレディが上品な笑みを浮かべながら私に声を掛けてきた。


「ええ、是非ご一緒させて下さい。」


私も笑みを浮かべ、2人で席を立ってカフェテリアへ行こうとした時、レイフが声を掛けてきた。


「アイリス、良かったら俺達と一緒にカフェテリアへ行かないか?」


レイフの背後にはエルンストとエドワードも一緒だった。そう言えばすっかり忘れていたが、ハイスクール時代から親しかった彼らも同じクラスメイトだったのだ。


「昨日は挨拶出来なかったな、アイリス。」


エドワードが笑みを浮かべながら言った。


「おや?君はもしかしてアイリスの友人になったのかな?」


エルンストはミレディをじっと見つめた。


「はい、そうです。私はどうしてもアイリス様とお友達になりたくて自分から声を掛けました。」


するとレイフが失礼な事を言った。


「それは有難う。アイリスは昔から同性からは敬遠されがちで・・・君のように友達になりたいと言ってくれた人は今迄誰一人いなかったんだ。アイリス・・きっと今夜は泣いて喜ぶはずだよ。」


「レイフ?その言い方はあんまりじゃない?」


私が腕組みをしながら言うと、レイフは笑いながら私の頭を撫でてきた。その時・・・。


ガタンッ!!


背後で大きな音が聞こえた。驚いて私達が振り向くと、そこにはオスカーが睨み付けるように椅子に座ったまま、今は不在となっている前の座席の椅子を蹴り飛ばしていたのだ。そんな様子をタバサはオロオロした様子で見守りながらオスカーの側に立っていた。


「おい・・・何だかオスカー王子・・機嫌悪そうだから早く行こう。」


エルンストが小声で私達に声を掛けて来たので全員で頷き、教室の外へ出ようとした時・・・。


「アイリス・イリヤッ!!」


突如オスカーが険しい声で私の名を呼んだ。


「は、はい・・・。」


恐る恐る振り向くと、いつの間にかオスカーは席を立って私を睨み付けている。


「アイリス・イリヤ。そいつらと・・・何処へ行こうとしているのだ?」


「は、はい・・・皆で一緒に昼食を取りに・・・。」


怒りを抑えた様子のオスカーに睨まれながら私は戸惑っていた。一体オスカーはどういうつもりなのだろう?今朝は私の迎えにも来てくれず、昨日あんなに毛嫌いしていたタバサと2人で教室へ入って来たと聞いている。そして今だってタバサが傍に立っているのに、何故かオスカーは彼女を無視して私に話しかけているのだから。


 するとオスカーが口を開いた。


「おい、お前達。これはみせものじゃない。さっさと食事に行ったらどうだ?但し、アイリス・・・お前はここに残れ。」


「え?」


「!そんな!オスカー様っ!」


タバサが悲鳴交じりの声を上げた。


「で、ですが・・・。」


レイフはオスカーを気まずそうに見るが、私は彼等に言った。


「皆さん、私の事は構わずにどうぞ食事に行ってきて下さい。」


「アイリス様・・・。」


ミレディは心配そうに私を見つめた。


「大丈夫です。そんな目で見なくても・・・。」


ミレディを安心させる為に私は笑みを浮かべた。


そう、70年前の私と今の私では圧倒的な違いがある。それは相手の心を読むことが出来る指輪をはめていると言う事だ。オスカーと何か話をしなければならなくなった場合・・いざとなったら、この手でオスカーに触れて彼が満足のいく返答の仕方をすればいいのだから・・・。


「オスカー様の機嫌が損なわれない内に・・・皆さん、先に行って下さい。」


私はオスカーやタバサに聞こえない程の小声で彼等に言った。レイフたちは互いの顔を見渡しながらそっと頷くと、一列になって教室を出て行った。

そして今教室に残っているのは私とオスカーとタバサのみとなった。


「おい、お前もいつまでここに残るつもりだ?」


オスカーは突然タバサに向き直ると言った。


「あ、あの・・・私もオスカー様とご何時所に・・・。」


しかしオスカーは言った。


「おい、お前もさっさとこの教室から出て行け。俺が用事があるのはアイリス・イリヤだけなのだから。」


そしてタバサをジロリと睨み付けた—。





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