第2章 10 ある疑惑
「まあ、最もお前は俺に等会いたいとは思ってもいなかっただろうがな・・・それどころか俺みたいなのが婚約者に選ばれてしまって迷惑だと感じていたかもしれないが・・・。」
私から視線を逸らせると自嘲気味にオスカーは言った。
「オスカー様・・・。」
何と言えば良いのか分からず、私は名前を呼ぶだけで精一杯だった。
「何せ、お前はあの絶世の美貌を持つイリヤ夫妻の一人娘だからな・・・。特にお前の母親は傾国の美女とまでうたわれていた程だ。お前が生まれた時から、各国で求婚の話が相次ぎ、大変な騒ぎになったそうだ。」
オスカーは顔を上げて、私を見ながら言った。
「え・・?」
そんな話は初耳だった。まさか、父が・・母が・・そこまで有名だったとは。そして私が生まれた時から求婚話が相次いでいたとは今始めて知らされた。
「父は・・・若かりし頃・・・お前の母親に恋していたそうだ・・・。だが既に恋人がいた・・。そこで父は2人を引き離そうとしたらしいが・・・その事に気付いた2人は急遽結婚したらしいな。父に・・・奪われない為に・・。」
「・・・・。」
私は絶句したままオスカーを見つめていた。まさかオスカー本人がその話を知っていたとは思わなかったからだ。
「何だ?お前のその反応は・・・・。大して驚いているようにも見えないし・・ひょっとするとこの話・・お前も知っていたのか?」
オスカーに尋ねられ、私は頷いた。
「え、ええ・・・。勿論知っておりました・・。で、でもまさかオスカー様がその話を知っているとは・・・。」
するとオスカーは歪んだ笑みを浮かべながら言った。
「ああ、この話だけは・・・父親本人からはっきり聞かされたからな。しかも・・・よりにもよって、昨夜聞かされたばかりなのだから・・っ!」
オスカーの口調が突然怒りを抑えたかのような口調に変わった。
「父は俺に言ったんだ。お前と俺を婚約させたのは・・・お前の両親に対する嫌がらせだと。お前の母が自分を選ばなかったから・・・自分の息子である俺と、お前を結婚させようと考えたらしい。」
「・・・。」
私は黙ってその話を聞いていた。ここまでは70年前に既に私が全て知っている事実であったからだ。だからオスカーの次の言葉に私は驚かされた。
「俺とお前の婚約の話は・・・全て俺の父が仕組んだ話だ・・・・。物心がついた時から、始終俺に監視を付け・・・俺の行動を制限してきた。そのくせ、俺の影武者を町で暴れさせ・・俺の悪評を国民に広めて来たんだ・・・。全てはお前が・・俺との婚約の話を拒ませる為に・・・!」
「!」
悔しそうに歯ぎしりしながら言うオスカーの話は嘘だとは思えなかった。それでは・・あの悪評は全て嘘だったと言うのだろうか?だとすると70年前に起こったあの出来事は・・?
私は・・どうしても確かめたい事があった。
「オスカー様・・・ひとつ伺いたい事があるのですが・・・。」
声を震わせながら私は尋ねた。
「オスカー様は・・・そのご自分の・・・影武者とは・・・お会いになったことがあるのでしょうか・・?」
「ああ、ある・・・。俺達王族はいつどこで命を狙われるか分からない。だから常に自分にそっくりに仕立てた影武者を立てる事になっているんだ。勿論俺だけではなく・・父にも影武者はいる。最も俺にはどちらが本物で、どちらが影武者がわからない。昨夜の父ですら本物だったのかどうか・・・!」
「と言う事は・・・ひょっとするとオスカー様の影武者は・・?」
「ああ・・・俺にそっくりだ・・・見分けがつかない位にな・・・。」
忌々しそうに言うオスカーの言葉に私は眩暈がしてきた。
ま、まさか・・・70年前に私を裁いたのは・・・オスカーの影武者・・?
私は途端に目の前が真っ暗になり・・・そのまま意識を手放した—。
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