第550話 島国に到着ですが何か?
リズ王女の親善使節船団はノーエランド王国軍船の先導により、その後は無事何も起こる事なくノーエランド王国の海域に入った。
途中、補給の為に港街に寄って補給をしてそこから、半日かけてノーエランド王国の王都に向かう。
ノーエランド王国の王都は港を擁しているから直接船で向かう事が可能なのだ。
「この辺りまで来ると、想像以上に行きかう船が多いね」
リューは『竜神丸』の甲板上で王都の手前の大きな湾を一望して感想を漏らした。
リュー達は現在、ノーエランド王国中型軍船先導の下、『エリザベス号』、『竜神丸』の順で並んでゆっくり進んでいる。
『エリザベス号』に乗り合わせているノーエランド王国の士官の話では、湾内は入港する船と出港する船の航路が決まっており、湾の外で順番を守って待機しているのだという。
ちなみにリズ王女一行は、軍船の先導からわかるように、軍用の航路を使って、湾の外で入港待ちする事なく優先して入っていく。
周囲にはリズ王女を歓迎する為にやってきた他の軍船も左右に付いての護衛体制だ。
「ノーエランド王国は島国だから、移動は船が重要らしいわよ?」
リーンはリズ王女から聞いたのか、リューに自分の知識を教えてくれた。
「へー。それにしてもあれだね。見かける船は、大型よりは中型の船が圧倒的に多いなぁ。 やっぱり、機動性を優先しているのかな?」
リューはこちらの船事情はよく知らないから、船長のヘンリーに聞く。
「おっしゃる通り、機動性重視で中型船、小型船が好まれるというのはあるかもしれないですね。でも、それは一時的な流行みたいなもので、大型船の価値自体は変わらないですよ。輸送には大型船が圧倒的に向いていますし」
ヘンリーは海賊時代から大型船の利点を生かした運用をしていたから、ノーエランド王国の流行には賛同していないらしい。
それに、問題の機動力については、リューの発案、マッドサイン開発の噴射装置をこの『竜神丸』にも装備した事でその弱点も補っているからヘンリーの考えは変わらない。
そんな新造船である『竜神丸』は形状から他の大型船とは違い現代的な形だから、護衛についてくれているノーエランド王国の軍船も興味津々なのか横にピタリと付けて、船員達がこちらをじろじろと観察していた。
「注目の的になっているね。──ヘンリー、わかっていると思うけど、ここが友好国とはいえ、うちの船は秘密が多いから、情報漏洩には気を付けてね」
リューは船長であるヘンリーに念を押しておく。
「もちろんです。船乗りならこの船に興味を持つのは当然でしょうからね。外交特権を利用して中には入らせないようにします」
ヘンリーもよく心得ているから、力強く応じる。
そこへ、同船している次男ジーロ、母セシル、妹ハンナが甲板上に上がってきた。
「そろそろ到着だね」
ジーロがリューに声をかける。
母セシルと妹ハンナは船首に向かうと目の前に広がるノーエランド王国の軍港に興味津々だ。
そこには見た事もない数の多くの船が係留してあるし、なによりその先には、王都が広がっている。
そして、妹ハンナは隣を進む軍船の船員達に手を振っていた。
軍船の船員達はそんな可愛らしいハンナに笑顔で手を振り返し、敬礼する。
「ハンナの可愛さは、万国共通みたいだね」
リューが次男ジーロに言う。
そして兄二人は笑い合うのであった。
「兄馬鹿な事を二人共言っていないで、下船準備をしましょう?」
リーンが苦笑してリュー達を注意する。
それを聞いてスードはハッとして、船室に駆け戻っていく。
どうやら、荷物をまとめていなかったのかもしれない。
「僕はマジック収納があるから、下船準備は万全だよ。──それよりもここまで広い湾だと中に、軍港と普通の港が並ぶんだね。不思議な光景だよ」
リューは前世の某軍港を想像して感心する。
「作りも面白いよね。軍港の周辺はぐるっと一回りできるように水堀が掘ってあって、ちゃんと防衛面も考えられているよ」
次男ジーロがそう言うと続けて、「シーパラダイン商会の参考にならないかなぁ」と独り言を呟いている。
「そう言われるとサウシーの港街傍に土地を借りているジーロお兄ちゃんのところの水練所とうちの造船所周辺もここを参考に整備したくなるよね……」
ジーロの言葉にリューも思わず理解を示す。
「二人共、さすがにそんな整備しようと思ったら、どれだけの資金と時間が必要になると思っているの。──あ、そろそろ到着よ」
リーンは二人の出費を考えない妄想にツッコミを入れると、到着を知らせるのであった。
軍港には、ノーエランド王国を代表して、エマ第二王女の他に王太子も出迎えてくれていた。
軍港という事で、海軍兵士達もずらっと並んでいる。
リズ王女は笑顔でその歓待を受けて、友人の仲になっているエマ王女との再会を喜び、抱き合う。
リュー達ランドマーク家与力一行は、王太子が対応してくれた。
傍にはエマ王女をクレストリア王国に迎えの使者としてきたサール侯爵がいる。
「我が妹の命の恩人の方々ですね! 話を聞いています。その節は本当にありがとうございました」
王太子はそう感謝を述べると、サール侯爵から名前を教えてもらいながら、次男ジーロ、リュー、母セシル、妹ハンナと一人一人丁寧に挨拶していく。
かなりの好人物だ、とリューは内心感心した。
そして、王太子は本命であろうリズ王女の挨拶に向かうと、今度はリュー達の下にはエマ王女が挨拶に来た。
傍にはソフィア・レッドレーン男爵令嬢がいる。
「ランドマーク家のみなさん、お久し振りです。みなさんお元気でしたか? 私はみなさんと過ごした楽しい時間が懐かしくて、ソフィアとよく話をしていたのですよ」
エマ王女はランドマーク領での数日間生活した思い出を大事にしてくれていた。
母セシルや妹ハンナとは挨拶代わりに抱き合って、砕けた物言いで話し始める。
そこにソフィア嬢が、ジーロの下に来た。
「ジーロ様、お久し振りです……。以前の約束を覚えていらっしゃいますか? お時間ができましたら、王都を案内するのでお楽しみにして頂けると幸いです……」
ランドマーク領ではエマ王女を守る為にも気丈な姿が多かったソフィア嬢であったが、久し振りのジーロの前だと完全に一人の女性になっていて、緊張していた。
「ソフィア嬢、お久し振りです。──ええ、僕もそれを楽しみにしていましたよ。また会えて嬉しいです」
ジーロは満面の笑顔でソフィア嬢に応じる。
「ふふふっ。二人共初々しいわね」
リーンがリューにこっそり声をかける。
「僕達は二人の邪魔にならないようにしないとね。それにリーンはリズに同行して護衛してもらうから、よろしくね」
「それはわかるけど、二人の事も気になる!」
リーンもやっぱり女の子という事だろう。
ジーロとソフィア嬢のデートが相当気になるようだ。
「誘われても付いて行ったら駄目だからね?」
リューは念を押す。
「……もう! 私が空気を読まない人みたいじゃない……!」
リーンが頬を少し膨らませて抗議する。
リーンはいつもマイペースで空気読まないじゃん!
とはさすがに言えないリューであった。
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