第481話 爆死ですが何か?
『赤竜会』の精鋭襲撃部隊を率いていたゴートンは呆然としていた。
近い将来、自分が『赤竜会』のボスになった時、直属の部下になっていたかもしれない幹部候補達が大邸宅と共にすべて吹き飛んでしまったのだ。
そしてそこに、残骸が空から降って来る。
ゴートンの元にいた部下数名もその爆発の残骸に巻き込まれたのか負傷して動けない状態だ。
ゴートン自身も負傷して、片耳の鼓膜が破れフラフラ状態である。
ゴートンはこの状況を把握するのに時間が掛かった。
フラフラの状態でこの状況を分析すると、敵のボスはどうやら自害したようだ。
大邸宅を吹き飛ばすような魔法? を使用して自爆したようだが、死んだのは確かだろう、任務は果たせた事になる。
精鋭部隊を全滅させてしまった責任は大きいが、自分は無事だし、これで『蒼亀組』のボスを倒せた事は大きいだろう。
ゴートンがそこまでようやく思考が働き、立ち上がった時であった。
「おお、これは想像以上に凄い事になってる! この技術は封印だなぁ……」
更地になった大邸宅のあった更地の中心の辺りにいつの間にか人が立っている。
それも子供や女だ。
いや、次々にその場から人が……?
ゴートンは目を擦る度に更地に立っている人が二十人以上に増えていく。
そう、リューは邸宅中にマッドサインが開発した魔法爆弾を仕掛け、それを起爆させたのだ。
当のリュー達は立て籠もった特別室から『次元回廊』で一時、ランドマーク本領に避難、時間をおいて戻ってきたのだった。
「強引なやり方だけど、敵の精鋭部隊とまともに戦っていたらうちにも損害が出ただろうから、それを考えたら安い作戦だったのかなぁ。──うん? 生き残りがいるね」
リューはリーンやランスキー、部下達二十名にそう説明するとゴートンの存在に気が付いた。
「……貴様らどうやってこの爆発から生き残りやがった……? いや、それはもういい……。てめぇが『蒼亀組』のボスか? 俺と立ち会え」
ゴートンは一転して自分が任務を失敗した事を悟った。
それは、事前情報で得ていた『蒼亀組』のボスの特徴にあるランスキーの姿を確認したからだ。
そして、任務遂行と自分の面子の為にもランスキーだけは討ち取らないといけないと判断したのであった。
「若。あれは多分、『赤竜会』のナンバー3で武闘派のゴートンかと……。確か会長であるレッドラの娘婿でその実力は『赤竜会』で一番だと噂されています」
ランスキーがリューにゴートンの特徴を確認して耳打ちする。
「そうなの? ……これは大物が釣れたね。──ボス! 相手が『赤竜会』のナンバー3なら、相手するのは僕レベルで十分です!」
リューはランスキーをまだ、『蒼亀組』のボス役という扱いで演技をし始めた。
他にも誰か生き残りがいるかもしれないと判断したのだろう。
「わ、わかったぞー。それならあとはお前に任せよう」
ランスキーもそれを察してリューの演技に乗ったが、どちらとも大根役者であった。
お互い棒読みで演じ続ける。
「? この俺相手にガキ一人だと? 舐められたもんだ……。俺は『赤竜会』大幹部ゴートン様だぞ?」
「結局のところナンバー3なら、その上にあと二人いるんでしょ? それならボスが出る幕ないでしょ」
リューは演技を辞めると素で応じた。
「『赤竜会』を舐めるな!」
ゴートンはそう言うと、その大きな体躯から想像できないような速さで腰に佩いた大剣を抜いてリュー達の元に駆け出してきた。
手にした大剣は炎に包まれている。
どうやら、魔剣のようだ。
それに応じるようにリューも魔法収納から『
ゴートンは飛び出してきた子供のリューの動きが只者ではないと判断、ランスキーを狙うのは後にしてそのまま、リューに炎の大魔剣を振り下ろす。
リューはそれをドスで受け止めるかと思いきや、大魔剣を打ち払うように右に受け流した。
そして、左拳をゴートンの隙が出来た右わき腹に叩き込む。
「ぐっ!」
ゴートンは後ろに吹き飛ぶが、倒れる事無くその場に踏ん張っている。
「油断している間に、仕留めようと思ったけど……、強いね」
リューはゴートンの頑丈さに軽く驚いた。
その強さは、もしかしたらランスキーといい勝負かもしれない。
「……なんて威力の拳してやがる。これ程の馬鹿力はうちにもほとんどいねぇぞ……」
ゴートンはリューがどうやら『蒼亀組』組長の隠し玉かもしれないと勝手に判断していた。
そして、続ける。
「……ここで『蒼亀組』の隠し玉とボスの首は取っておく必要がありそうだな」
ゴートンは血をぺっと地面に吐くと炎の大魔剣を構え直す。
その目は先程にも増して本気だ。
リューもそれを察して、『異世雷光』を右手から左手に構え直す。
「……これは捕らえようと思って手を抜いたら怪我するかも」
とつぶやく。
「おらー!」
ゴートンはその炎の大魔剣に魔力を注いで炎を噴出させると、それが大きな刃のように伸びてリューを襲う。
「おお! こんな魔剣があるのか!」
リューはその炎の刃を左右に動いて躱しながら、場違いな感動をしている。
リューにとって大魔剣の炎はロマンの塊だったようだ。
「ちょこまかと!」
ゴートンは炎の大魔剣の魔法攻撃でもリューには届かないと判断すると、すぐに炎を引っ込めた。
「今度は何が来るのかな?」
リューは真剣だが、ゴートンの次の攻撃が何なのか興味をそそられている。
「小細工は終わりだ。貴様を斬る事のみに集中する……!」
ゴートンは大魔剣を肩に担ぐように構える。
どうやら、振り下ろすその一振りで、リューを両断するつもりのようだ。
単純な発想ですぐに対応できそうだが、これを一流の腕前の者がやろうとすると話が違ってくる。
単純な一振り程、実力者の腕がはっきりとわかるものだからだ。
ただの一振りだが、その一振りに全てを注ぎ込まれると、リューでも危険だろう。
リューは深呼吸をすると、何の躊躇もなく、その構えの正面に踏み込んだ。
ゴードンは自分の大魔剣の間合いに入った瞬間、半歩踏み込み炎の大魔剣をリューの頭上に叩き落とす。
リューはその大魔剣に対し、ドスを握った左手で払うように全身で回転する。
それは綺麗に大魔剣の軌道を逸らし、リューの赤い髪を数本断ちながら足元に叩き落とされた。
そして、リュー本人は回転しながらゴートンの懐に踏み込み、ピタリと止まると、右拳を、その鳩尾に叩き込む。
それまでの一連の流れはほんの一瞬の事であった。
大魔剣が地面に叩き落とされる音と、リューの拳がゴートンのお腹に叩き込まれる鈍い音が連続してなると、ゴートンは崩れ落ちるように倒れ込みそうになるが踏ん張り、「まだだ……!」とリューに掴みかかる。
しかし、次の瞬間、『異世雷光』の雷鳴が鳴り、ゴートンはその雷に討たれてそのまま突っ伏すのであった。
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