第284話 動きが早いですが何か?
リューがマルコから西部の『聖銀狼会』が動くという報告を聞き、『闇商会』と『闇夜会』の双方にその情報を伝える為に伝令を走らせようとしていた頃、王都の『闇商会』と『闇夜会』の関係各所では同時刻にあらゆる問題が起きていた。
「ぐはっ!」
突然、『闇商会』王都事務所の一つを任されている幹部が吐血して倒れた。
「兄貴が突然苦しみだして倒れたぞ!」
「誰か医者を!──こりゃ毒だ!誰だ幹部の飲む酒に毒を盛りやがった奴は!?」
慌て、疑心暗鬼になる部下達。
さらにその近くの別の事務所でも不審な事が起きた。
それは事務所の火事であった。
「事務所の裏から急に火の手が上がったと思ったら一気に燃え広がりやがった!」
「中にはまだ、人がいるぞ、早く消火しろ!」
「火の回りが早い!誰か近くの事務所に消火の為の人手を頼んでこい!」
騒ぎはこの二件では済まなかった。
取り立ての為に出ていた部下が通行人の何者かに刺されたという報告が上がってくる。
「何!?次から次へとどうなってやがるんだ!?」
『闇商会』のボス、ノストラはそんないくつも上がってくる報告に驚くと幹部の一人に問い質した。
「わ、わかりません!ただ、これも関係しているのかわかりませんが、先程うちの家族が襲撃されて何者かに誘拐されたと、部下から報告を受けました……。護衛の連中も重傷です。ボス、どうしましょう!?」
幹部は自分の家族の安否が心配で、ボスであるノストラに的確な助言をするどころではない。
「……これはどこかの組織から攻撃を受けているな。『聖銀狼会』は、まだ、王都にも入ってないはずだ……。──情報を集めろ。こんなに用意周到にうちに仕掛けてくるところは限られている。王都だと『竜星組』、『闇夜会』、『黒炎の羊』、『雷蛮会』くらいだ、すぐに調べろ!」
幹部の動揺をみてノストラを落ち着きを取り戻すと、部下達に指示を出した。
だが、冷静沈着とまではいかなかった。
まさか王都以外の組織が仕掛けてきているとまではこの時想像できていなかったのだった。
その時間の『闇夜会』でも同じような事が起きていた。
縄張りである飲み屋街で立て続けに火の手が上がり、騒ぎの中で冷静に指示を出していた幹部が刺され、駆け付けた用心棒も同じく刺され重傷、『闇夜会』の大きな収入源の一つであるいくつかの金貸し屋には、武装強盗が押し入り死傷者を多数出すなど計画的としか言いようがないタイミングで事件が多発した。
『闇夜会』のルチーナも、ノストラと同じく平静を保ってすぐに対応し、指示を出していたが、それは表面だけで、何者かがこちらに仕掛けてきている事にはらわたが煮えくり返っていた。
「情報では、『聖銀狼会』は、まだ、王都進出前のはず……。そこに便乗して、うちに喧嘩を売るところは、『竜星組』か『闇商会』、『黒炎の羊』、『雷蛮会』くらいだ。──兵隊を集めな!どこが仕掛けてきたかわかったら、すぐ報復を開始するよ!」
ルチーナは元々、『闇組織』時代は武闘派で知られていただけに、この辺りはノストラよりも決断が速い。
情報次第では、すぐに大きな戦争になりそうな勢いであった。
リューが送った使者は、この騒ぎでノストラとルチーナの近辺には近づけなくなっており、一度、引き返して来ていた。
その使者達が、「自分達下っ端では、混乱して臨戦態勢の二つの組織への接触が難しくなっていると判断して、引き返してきました」と、現場が殺気立っている事を知らせてきた。
リューは、まさかこんなに早く『聖銀狼会』が王都に兵隊を入れて、仕掛けて来るとは思っていなかった。
こちらは情報を早くから掴み、先手を握っていると思っていただけに後手に回っている事を、この部下達の報告でこの時知ったのであった。
すでに夕方になっていた。
そこへ『闇商会』と『闇夜会』から確認の使者が来た。
「どちらの使者とも同時に会おう。別々にあったらいらぬ疑いを抱かれそうだ」
リューは、そう判断すると、使者を大きな応接室に通した。
面会するとすぐに、
「仕掛けてきたのは、そっちか?」
という短い内容の手紙を渡されたが、ほとんどは使者の口上で問い質された。
両者とも相当殺気立っている。
「その事でうちからも使者を出したが、現場が混乱していて使者が会えずに引き返してきた」
リューは、そう答えると今回の件について、想像よりもはるかに早く『聖銀狼会』が動いている事を伝えた。
「当初こっちが掴んでいる情報では、先兵隊の規模は百人くらいだと考えていたけど、その倍はすでに王都に入り込んでいた様です。完全に裏をかかれました。どうやら敵は、情報が漏れた場合を想定して迅速に初動で大ダメージを与える行動に出た様です。ただ、二つの組織を同時に狙ったという事は勝つ算段も付いてるという事だと思います」
使者達は、リューからの想定外の情報の内容に驚き、殺気だった。
リューは話を続ける。
「お二方とも落ち着いて下さい。『聖銀狼会』は、ノストラ、ルチーナのお二人には因縁のある相手だと聞いていますが、事は王都で起きた問題、うちとしても他人事ではないです。我々『竜星組』も、いつでも協力するとお伝え下さい」
「ボスにそう伝えます」
「申し出ありがとうございます」
双方の使者は、リューの申し出に感謝すると、詳しい情報の書かれた書類をリューの部下から渡されると、急いで各自、ボスの下に戻るのであった。
「この感じだと、敵は同盟相手である『雷蛮会』に内緒で、兵隊を次々に王都に入れている可能性あるわよ」
と、リーンが指摘した。
「うん。今回は敵の動きを甘く見ていたよ。じっくりと王都進出を目論むものだとばかり思っていたのけど……。まだ、色々と策を用意している可能性があるね」
「『雷蛮会』はいい面の皮ね。多分、情報吸い上げられたらお払い箱じゃない?」
「そんな感じだね。『聖銀狼会』か……。うちも、すぐ『闇商会』、『闇夜会』に協力出来る様に部隊を編成しておこう。──マーセナル。アントニオ達、魔境の森組を集めてくれる?」
「はい、承知しました」
執事のマーセナルは頷くと、応接室から出て行く。
「問題は、敵が今どこに潜伏してるかだね。ランスキーに敵が潜伏してそうな王都の物件について調べて貰おうか」
リューは忙しい中、また問題が増えた事に頭を悩ませるのであった。
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