第152話 誕生ですが何か?
リューが叙爵を断り、父ファーザが国王への拝謁を求めて数日後。
国王も暇な身分ではない。
一地方貴族の拝謁に早々応じるわけもないのだが、思った以上に早くその許可が下りた。
父ファーザは指定された時間に王宮にすぐに赴いた。
リューも同行したいところであったが、
「保護者であるお父さんが行ってくる。お前はリーンと一緒にちゃんと学校に行ってきなさい」
と言われて引き下がった。
そしてリューはその日の学校の授業の間、父ファーザが叱責されているのではないかと気になってしょうがないまま、一日を過ごす事になったのであった。
リューとリーンが王都組事務所もとい王都自宅に帰ってくると父ファーザも戻っていて、コーヒーを飲んで一息ついているところであった。
「帰ったか。早速だが、結論から言おう。リューは王家から騎士爵位を賜る事になった」
父ファーザは簡潔にそう言った。
「え?それじゃあ……、僕は家を出なくちゃいけないの……?」
「いや、そうではない。リューはランドマーク家の与力として、1つの街の街長を任せる事にした」
「ランドマーク家の与力?」
父ファーザから意外な言葉が出て来てリューは戸惑った。
詳しく聞くと、父ファーザは一から事の顛末を話し始めた。
まず、拝謁が叶ったのは宰相であり、国王には会えなかったらしい。
そして、宰相から何か不満があるのかと聞かれ、リューの想いを改めて父ファーザが代弁した。
そして、話し合いがなされた結果、父ファーザとしてはまだ、子供であるリューを家から出すつもりはない事、リューもそれを望んでいる事で一旦、叙爵は流れそうになっていた。
だが、宰相の側にいた官吏の一人が、アドバイスをした。
「最近、ランドマーク子爵は飛び地の領地を陛下より一つ与えられる事になりました。そこは王都に近く交通の便も悪くありません。平日は学校に通い、休みの日にその街の街長をして貰うのはいかがでしょうか?子爵の与力として爵位を与えれば陛下の面目も保たれ、子爵も、まだ成人前のご子息を外に出さずに済み、ご子息の意にも沿う、これなら両者が満足できる結果になるのではないでしょうか」
この両者が納得できる提案に宰相も父ファーザも賛同するのだった。
そして、ひとつファーザがお願いしたのが、魔法士爵位ではなく、騎士爵位であった。
ランドマーク家は武で身を立てた家系。
リューは魔法ばかりが目立っているが剣の腕も確かでランドマーク家に相応しい男子に育っていると自負している。
それだけに、魔法士爵ではなく騎士爵位を求めたのだった。
地位的には、同じであるが、どちらで身を立てたかの証明なのでこの父ファーザの親としてのこだわりに感じ入った宰相は頷いたのだった。
「──という事で、リュー、お前はうちのランドマーク子爵家の与力になり、臣下の1人として騎士爵位を賜る事になる。それに伴いマイスタの街の管理をお前に任せる。だが、学業が優先である事に変わりはない。学業との両立が出来る様に、普段街はこれまで街長を務めていた者がうちに仕える事になったので、そのまま任せる予定だ。それに口を出すのも任せるのもお前次第だ」
父ファーザの言葉にリューは感情と頭がついて行かなかった。
断った事で処分されなかった事を安心していいのか、爵位を貰えた事を喜んでいいのか、街を一つ管理するという大任に責任を感じなければいけないのか、感情がグルグル巡って頭を抱えた。
「リュー、落ち着きなさいよ。あなたは騎士爵を得て一家を立てるのよ。胸を張って。私も助けるから安心して頂戴」
リーンがリューを励ました。
そうだ!自分は看板を貰う事になるのだ。それにランドマーク家が家族である事にも変わりはない。何を悩む事があるのだろう。
リューはリーンに励まされ自分を奮い立たせたのだった。
後日、王家から使者が来て、リューは父ファーザ、母セシル、祖父カミーザ、祖母ケイ、兄タウロが見つめる中、簡素な騎士爵授与の儀が行われた。
それは本当に簡単で、リューの名前が読まれ、叙爵の証明書が渡されるだけのものだったが、立ち会った家族にとってはリューの晴れ舞台は感慨深いものだった。
神童として一番期待が大きかったリューだが、こんなに早く名を上げる事になるとは思っていなかったのだ。
授与式が終わるとランドマーク家の面々は一人一人リューを抱きしめては祝福するのであった。
こうして、正式に爵位を得て、弱冠十二歳の騎士爵が誕生するのであった。
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