第114話 新作お披露目ですが何か?
シズとナジンにランドマークビル内を案内して数日後の休日。
シズは父親であるラソーエ侯爵と従者を連れ、ナジンもそれに同行してランドマークビルを訪れた。
だがその日は何とも間が悪かった。
と言うのも、先日シズ達に振る舞った試作品の『ホワイトチョコ』のお披露目の日だったのだ。
この日は、新作発表とあって、父ファーザも様子を見ようと領内からリューの『次元回廊』でやってきていた。
そして、五階から父ファーザと共にオープン前のお客さんの様子を眺めていると見た事がある馬車がビルの前で止まる。
リューはすぐに気づいて、父ファーザに、
「お友達になったラソーエ侯爵のご令嬢の馬車だよ」
と、馬車を指さして教えていたのだが、シズとナジンが降りてきた後に、高貴そうな人物が続いて降りてきた。
それを見て、ファーザとリューは親子で目を合わせ、まさかという顔をした。
「……ラソーエ侯爵の馬車から降りてきたという事は──」
「「侯爵ご本人!?」」
最初、父ファーザもどう対応していいのかと思ったが、息子の友人の親なので身分関係なしに挨拶は必要だと結論に至り、リューと一緒に下の階に降りて行った。
一階に到着すると、行列にシズとナジン、そしてその二人と一緒にラソーエ侯爵が並んでいる。
「……リュー君、おはよう」
シズが控えめに挨拶すると、
「リュー、おはよう」
とナジンも一緒に挨拶する。
人見知りのシズが自分から他人に挨拶するその姿に、ラソーエ侯爵は娘の成長した姿を見て感動したのか目を潤ませている。
「おはよう二人とも。今日は新作のお披露目があるから人が多いんだよ」
と、リューは二人に説明する。
父ファーザは、それを横目にラソーエ侯爵に挨拶をした。
「ラソーエ侯爵でしょうか?私、息子がご息女と同じクラスでして。この子の父親のファーザ・ランドマークと言います」
「これは、初めてお目にかかる。この行列には驚いてますよ、ははは!」
どうやら、シズの父親は率直な感じの人の様だ。
「みなさんを行列に並ばせるわけにはいかないので、こちらにお越し下さい」
ファーザはラソーエ侯爵一行を喫茶「ランドマーク」の個室に案内しようとした。
「娘はこの日を楽しみにしていたので、並ばせて上げて下さい。この子が自分で選ぶ事が楽しみなんだと力説するので付いてきたんですよ」
ラソーエ侯爵は笑顔で答えるとシズの頭をなでる。
娘の成長を楽しんでいる父親の顔にファーザも共感したのだろう、無理は言わず侯爵の発言に頷いて理解を示した。
「わかりました。それでは、後で喫茶『ランドマーク』にお立ち寄り下さい。個室をご用意しておきますのでそこでスイーツでもお楽しみ下さい」
ファーザはそう告げると、リューにお店の様子を見てくると言って二階に上がっていった。
暫くするとオープン時間になり、新作の『ホワイトチョコ』を目の当たりにした行列は歓声を上げた。
「白いわ!どんな味がするのかしら!?」
「本当だ!雪の様な白さだな。これは楽しみだ!」
「並んでおいて良かったわ!新作の『ホワイトチョコ』と、いつものドライフルーツ入りチョコは絶対買うんだから!」
『チョコ』ファンのお客さん達は並びながら自分の番が回ってくると、あらかじめ決めていた『チョコ』を指さして数を指定していく。
シズはその前の列の人達の姿を見て自分も並んでいる間に決めなくては!と、ガラスケースを覗いて『チョコ』を選ぶのであった。
みんな新作の『ホワイトチョコ』をまずは選ぶ。
何しろ先に買ったお客が我慢できずにその場で食べて絶賛しているのだ、買わないという選択肢は無い。
シズも一度食べた『ホワイトチョコ』の味を覚えている。
自分の番がやって来ると、一番に『ホワイトチョコ』を選び、リューが勧めてくれたナッツ入りチョコと、各種のドライフルーツ入りチョコも父親の顔を確認すると沢山買っていいかお伺いを立てる。
ラソーエ侯爵が頷くと、シズはパッと表情を明るくして店員に小さい声で一生懸命、一つ一つ指さして注文するのであった。
その後、喫茶「ランドマーク」の個室で、リューがスイーツを勧めてくれたので、シズがフルーツのクレープ、ナジンがチョコバナーナ、ラソーエ侯爵がリゴーパイを食べて感動の渦が起きた事は個室の中の秘密の出来事である。
シズ達は個室でスイーツを満喫した後は、『コーヒー』専門店で『コーヒー』とそれを入れる道具一式、コーヒーカップも家族分購入し、一階に降りては、『乗用馬車一号』一台、使用人達の作業用に手押し車五台、スコップ五本、リヤカー二台を購入して帰っていくのだった。
ちなみにトイレも後日、侯爵邸に工事が入る事になる。
「これは過去一番の太客だ……」
リューは、シズ一行の購買力にただただ驚くのであった。
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