第111話 宣伝ですが何か?

 王立学園のお昼休み。


 1年校舎の食堂の出入り口は二か所あった。


 ひとつは、価格設定が安くて文字通り学生の味方で、ほとんどの生徒が集い、テラス席もある広めの一般的食堂の入り口。


 もうひとつは、高めの設定で高級な料理が食べられる。

 極一部のお金持ち、貴族が集い、一般食事席が見下ろせる二階席が設けられたところの出入り口。


 この二つは出入り口が隣り合わせだが、貴族でもほとんどは安い方で食事をする。


 なぜなら高い方は一部の特別クラスの生徒が使用するという暗黙の了解があるからだ。


 この説明はランスにして貰ったのだが、友達になったシズが侯爵家のご令嬢なのでどうなのかと聞くと、シズもみんなと同じところでいいと言う。

 ナジンに確認の為目配せすると、ナジンも頷くので一般の食堂でいい様だ。


 リューはみんなが一般食堂でいいのならと、食堂のおばさんに持ち込みOKか確認し、大丈夫とわかり席に付いた。


 そして、班の友達みんなにマジック収納から喫茶「ランドマーク」の食事をとりだして提供する事にした。


「これは?」


 ナジンがみんなを代表して聞いてくる。


「今日はランドマーク領で食べられている主食のパスタ各種で、トメートのミートソースにペペロンチーノ、カルボナーラ、ボロネーゼ、そして新作のボンゴレを用意したよ」


「おお!いい匂いじゃん! ソースが色々違うのな?」


 ランスは見比べるとお肉が目立つボロネーゼのお皿を取ると自分の前に置いた。


「おい、ランス。そういうのは、レディファーストでシズとリーンに最初に選ばせないか」


 ナジンがランスの行為を注意する。


「あ、大丈夫だよ。同じものでもまだ、用意はあるから」


「そうなのか?……わかった、シズ、どれが食べたい?」


 ナジンはやはりシズが最優先の様だ。


「……うーん。私は……、これにする……」


 シズが選んだのはカルボナーラだ。


「じゃあ、私は新作のやつね!」


 リーンは王都で入手したアサリで作ったボンゴレを選んだ。


「自分は、香りがいいこれにするよ」


 ナジンはシンプルなペペロンチーノのお皿を手にした。


「じゃあ、僕はトメートのミートソースね」


 うまい具合に全員が違う物を選んだ。


「じゃあ、みんなどうぞ!」


 その合図でみんなが一斉に食べ始めた。


 リューはリーンと一緒に手を合わせると「……頂きます」と、言って食べ始める。


 シズとナジンがその光景を見て一瞬手が止まったが、それを聞くのは食べた後とばかりに用意してあるフォークで食べ方を聞くと丁寧に巻いて食べ始めた。


「この肉のやつ、美味いな! 麺もソースと絡んで食感が良いし!」


 ランスは、勢いよく麺を啜りながら感想を言った。


「この麺は腹持ちが良さそうだ。それに食欲をそそるニンク?の香りに、このピリッとした辛さがマッチしてシンプルに見えて美味しいな!」


 ナジンがペペロンチーノを絶賛する。


「……クリーミーでいて濃厚、ベーコンも美味しい……」


 シズが控えめながら笑顔で感想を漏らした。


「これ流行るわよリュー。この貝殻は邪魔だけど、お出汁が麺に絡んで美味しいわ!」


 リーンも新作のボンゴレを高評価した。


 軒並み高評価なのでリューは安心して笑顔になると、ミートソースを食べるのだった。



 食後は、デザートだ。


 朝に約束した『チョコ』の試作品である白色のチョコを取り出してみんなに渡す。


「うちの職人が趣向を変えて開発した『ホワイトチョコ』だよ。どうぞ、食べてみて」


 シズはすでに今までの『チョコ』とは色が違う事に驚いて目を輝かせている。


 ナジンは、色の変化がどういう事なのかわからないので、シズの反応を見て凄い事の様だと憶測を立てた。


 ランスは『チョコ』自体が初めてなので、目の前の白い物体がどういうものなのか全くわかっていない。


 リーンはすでに一度試食を済ませているので誇らしそうにしている。


 今度はランスもレディファーストでシズが最初に手にするのを待った。


 みんなの注目が集まる中、シズが『ホワイトチョコ』をひとかけら手にすると口に運んだ。


「……!……甘くて滑らかで美味しい……!」


 シズが幸せそうな笑顔になって感想を漏らした。


「でしょ?『チョコ』とはまた、違う味よね!」


 リーンもひとかけら口に入れてシズに同意した。


「なんだこれ!?こんなに甘くて美味しい食べ物初めてだ!果物の砂糖漬けも甘いけどこっちは断然甘さに品がある!」


 ランスが未知の領域の食べ物にカルチャーショックを受けた。


「……自分は以前食べた甘さ控えめの『チョコ』が好きかな」


 ナジンはどうやら甘過ぎない方が好みらしい。

 言ってる事はよくわかる。


 リューは班のみんなの好反応に手応えを感じると、内心ガッツポーズをするのであった。

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