第86話 爵位の差ですが何か?
リュー達一行は、近くの村の小料理屋で休憩する事にした。
「さっきの貴族、感じ悪いガキでしたね」
スーゴがお店の席に着くなりオブラートに包む事なくはっきり言った。
「私もそう思ったわ。リューが話しかけてるのにあからさまに無視してたわよ」
リーンもスーゴに賛同する。
「彼はきっと僕が男爵家の子供だとわかってたのかもね。馬車に家紋が入ってるし。となると、あっちは格上の多分、この街道沿いで通り過ぎたトーリッター伯爵領の子息かもしれないよ」
「なるほど。リュー坊ちゃん冴えてますね。確かに伯爵家なら男爵如きは相手にしないかもしれないですね」
「ちょっと、スーゴ。如きって何よ、如きって!ランドマーク家を馬鹿にしてるの!?」
リーンがスーゴに噛みついた。
「いやいや!あっちがそう思っているって話だよ!俺はそうは思ってないって!」
スーゴは慌てて弁解した。
「二人共落ち着いて。こういう事は今後いくらでもありえる事だから。王都に行けばそういう人は幾らでもいるよきっと」
無視された本人が気にしていない様なので、二人は黙るしかなかった。
「王都は沢山貴族がいるのだから、上下関係は気にした方がいいかもね。失礼があってトラブルになったら謝るのは男爵家のうちだから」
二人に念を押した。
特にリーンはその辺りにはこだわりがあんまりあるとは思えない。
ランドマーク家を誇ってくれているのはわかっているが、格上の貴族の対応について万全とは言えないだろう。
「……わかったわ。ランドマーク家の恥にならない様に気をつける」
意外と素直にリューに頷いた。
「俺は元から、貴族様には気を遣ってますよ坊ちゃん。まあ、会う機会はないんですが。わはは!」
スーゴは経験豊富なのでその辺はうまく立ち回れるかもしれない。
そんなやり取りをして休憩時間を過ごし終えるとまた、出発する事にした。
御者と領兵もすでに待機している。
馬車に乗り込もうとすると声をかけられた。
「ちょっとお待ちを!先程はありがとうございました」
トーリッター伯爵と思われる貴族のところの感じの良い御者だった。
「あ、直りましたか?」
リューがチラッと御者の背後を見ると、丁度馬車から貴族の男の子が降りてくるところだった。視線が合うと睨まれた。
これは、逸らしておいた方が良さそうだ。
「はい、お陰様で。あ、私、トーリッター伯爵のところで御者を務めてる者です。それでそちら様は?」
「僕はランドマーク男爵ファーザの三男で、リューと言います」
「そうでしたか!失礼ばかりですみません!……お陰で坊ちゃんの機嫌が悪くなる前に直せました、本当にありがとうございます」
こそっと御者はリューに言うと、再度お礼を言い立ち去って行った。
視線が合った時、睨まれたけどあれで機嫌は悪くない方なのか……。
あの御者さん大変そうだ……。
と、リューは思いながらリーンと一緒に馬車に乗り込むのだった。
その日の夕方。
とある村に辿り着くと早速宿屋を取った。
一応、リューも男爵という貴族の子息なので宿屋側は一番いい部屋を空けてくれた。
リュー的には、普通の部屋でも十分だったのだが、こういう時、貴族として多少のお金をバラ撒いて村を潤わせるのも貴族の務めだろうと思い直した。
食事では御者や領兵にも大盤振る舞いして多少お金を村に落とした後、部屋に引っ込んだのが、しばらくすると宿屋の主人が部屋の扉をノックしてきた。
「すみません、お客様。実は折り入って相談が……」
深刻そうなトーンに扉を開けると、申し訳なさそうに青ざめて汗を拭く宿屋の主人が立っていた。
そして、急に土下座する。
「実は、今、下に新たなお客様がおいでになっているんですが、一番いい部屋を空けろと言われまして……」
貴族である自分に言うという事はそれ以上の貴族、つまり、子爵以上。
もしかして…。
「それは、トーリッター伯爵の名前が出ているんですね?」
「そ、そうです!…なぜお判りに……?」
「日中、遭遇しましたので、何となく。……わかりました。部屋を移動します」
「あ、ありがとうございます!本当に申し訳ありません!」
宿屋の主人は、板挟みにあった気持ちで生きた心地がしなかっただろう。
リューが素直に応じてくれたので、青ざめていた顔に血の気が戻っていった。
最初、他の一般のお客の良い部屋を主人が空けようとしたのでそれを断った。
自分まで同じ事はしたくない。
スーゴやリーンの部屋の方が良さそうではあったが、寝るだけなのでリューはこだわらなかった。
そこでスーゴの部屋に転がり込もうかとも思ったのだが、酔っていてすでに寝ていたので諦めた。
「隊長としてそこはどうなの?」
リューはノックしても起きてこないスーゴに内心呆れた。
結局、リューは主人の案内で空いてる部屋に移動したのだった。
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