第80話 行列が出来ますが何か?

 ランドマーク領の領都であるランドマークの街の中央通り。


 リューによる豊穣祭での出店は今年で最後との噂が流れ始めていた。


 来年にはリューとリーンは学校に行く予定だからだ。


 それと入れ替わりに嫡男であるタウロが学校を卒業して帰ってくるのだが、豊穣祭の出店のメニューはリューが考えている事を領民は知っているのだ。


 なので、年に一度の贅沢な甘味を味わえるのは今年で最後かもしれないと街中の小料理屋で憶測をつぶやいた者がいた。


 そのつぶやきを耳にした者は冗談と捉えず、他の者に「聞いたか、あの話?」と、事実であるかの様に話した為、瞬く間に広がっていったのだった。


 そしてその噂には微妙に尾ひれが付き、


「リュー坊ちゃんが考えた過去最高の甘味が豊穣祭で出されて、出店は今年で最後になるそうだ。これは食べないと後悔するぞ!」


 と、地味にハードルが上がるという状況になっていた。


 リューもこの噂を耳にして、胃が痛くなっていた。


「過去最高かどうかなんて食べた人の味覚次第だからね!?」


 リューはメニューを再考するべきかと、プレッシャーに押し潰されそうになっていたが、


「あのクレープは美味しいんだから自信持ちなさいよ!」


 と、リーンが太鼓判を押してくれて正気に戻るのだった。


 領民は毎年、このランドマーク家の出し物を楽しみにしていたが、最後と聞き、領都から離れている村々の者が、


「噂のリュー坊ちゃんの甘いお菓子を今年こそは食べねば!」


 と前日から領都入りして街は混雑し、異様な雰囲気になっていた。


 中には宿を取らず、ランドマーク家の出店が出されると推測される広場で野宿しようとする者まで現れ、領兵が注意して回る事態になっていた。


 一応、出店の場所は毎年、くじ引きで決められていてランドマーク家もそれに従っている。

 領主なのだから一番良いところに、とはしないのが父ファーザの良いところだ。


 広場の雰囲気を眺めながらリューとリーン、妹のハンナが歩いていると、


「下見に来られてるぞ。やはり今年もここか!」


 と、勝手に確信する者もいた。


 多分、それがまた噂としてすぐ広まって野宿組が増える事になるだろう。


 実は今回、妹ハンナに出店の場所決めのくじを引いて貰ったのだが、広場がある大通りから一本入った通りの角が当たっていた。


 そう、ハズレである。


 通行人が行き交うので角はあまり良くないのだ。


 広場が一番良いのだがハンナが自分の運の無さにショックを受けていたので、


「どこで出しても同じだよ」


 と、リーンと二人で慰めたのだった。


 なので…、


 広場で野宿しようとしているそこの君、領兵と揉めるだけ無駄だよ。


 と、広場で領兵と揉める若者を見て、内心ツッコミを入れるリューであった。




 豊穣祭当日の朝早くの広場。


 各、割り振られた場所に出店の設置をする商売人達で賑わっていた。


 リュー達はリューのマジック収納で一瞬で設置できるので昼ギリギリまで姿を現さない。


 その為、広場の一角に設置してないスペースが数か所あると、そこがランドマーク家のスペースに違いないと、山を張ってその数か所のスペースの前に早くも列ができ始めた。

 そこは、ただ単に、混雑を予想して休憩出来る様に空けてあるだけなのだが、行列はそうは思っていないのだった。


「きっと、この行列が当たりだよ!」


「いや、こっちだね!昨年の対角線上になるここが正解だよ!」


「違うね。俺はくじを引いた商売人から聞いた話だと、意外な場所と言っていた。ならば、広場の隅のここだよ!」


「その情報、マジか!?」


 という具合に、行列同士で口喧嘩の応酬が始まった頃。


 離れの村から来た一団が、おろおろしてどこに並んでいいのかわからず、広場から離れた角で固まって相談していた。


「最後と聞いてやってきたけど、これはどうしたもんかな」


「どこに並べばいいのか全然わからんなぁ」


 村人達がそう漏らしていると、子供達が集団でやってきた。


「ここ、出店設置するので横に移動して貰っていいですか?」


 子供の一人が村人達にお願いする。


「ああ、ゴメンよ!」


 村人達はおろおろしながら、スペースを空けると次の瞬間、目の前に出店が現れた。


「「「なんじゃこりゃ!?」」」


 村人達が驚く中、子供達に混じっていたエルフが口を開いた。


「喜びなさい。あなた達が、ランドマーク家の出店の行列の一番目よ!」


 遠く離れた村から来た一団は、運良くリュー達のお客の第一号になったのであった。

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