第78話 子爵のその後ですが何か?
リューは、『次元回廊』でランドマーク領の自室に戻ると、すぐ、ファーザがいるであろう執務室に直行した。
父ファーザは、案の定、熱心に書類に目を通してサインしていたのだが、リューがやって来たので手を止めると休憩する事にした。
「どうした?この時間だとパーティーの最中だろう?」
ファーザが当然の疑問をぶつけたのだが、リューの話を聞いて見る見るうちに顔が険しくなっていった。
「……そうか、みんな無事なんだな?……ブナーン子爵は南部地域の派閥に属する貴族だ。南東部の別の派閥である格下のうちが子爵の進退に関わるのはまずい。セバスチャンに、その盗賊の首領は斬り捨てる様に伝えよ。ブナーン子爵には私から今回の件については釘を刺す手紙を書いて送っておく」
「それは、ブナーン子爵の罪を追求しないという事ですか?」
実直な父が見せた意外な反応にリューは驚いた。
「貴族社会で地位が上の者を相手に、盗賊の証言のみで批判する事は無謀なのだ。かと言って、盗賊を野放しにする事は貴族として許されない。盗賊には死をもって罪を償って貰う。その首は、ブナーン子爵に届けさせよ。だが私も自分の子供の命が狙われて見過ごすつもりもない。ここは任せなさい」
リューは父の真剣な表情に圧を感じ思わず頷くと、父の判断に同意するのだった。
リューが戻ってセバスチャンに父ファーザの意思を伝えると、
「わかりました」
セバスチャンはそう短く答えて、盗賊のボスの男を茂みに引きずっていく。
命乞いをする声が遠ざかっていった……。
リュー一行は、今回の金貸しツアーは後味が悪い気持ちのまま帰郷する事になるのだった。
ファーザはリュー達が帰ってくる間に、派閥の長であるスゴエラ侯爵に会いに行っていた。
そこで今回の件を相談した。
スゴエラ侯爵は、ファーザから話を聞くとすぐにブナーン子爵が所属する派閥の長である侯爵に使者を立て、今回の件でブナーン子爵の行為を非難すると同時に、ブナーン子爵の息子は優秀なので、”穏便”に済ませる様に提案した。
派閥の長である侯爵はこの使者の話に驚くと同時に、ブナーン子爵の愚かな行為に怒りを覚えた。
それも相手は、今、勢いのある事で有名なランドマーク男爵だという。
スゴエラ侯爵はこちらの顔を立てて穏便にと提案してくれている。
これは助かる申し出だった。
確かに、スゴエラ侯爵側の言う通り、ブナーン子爵の跡取り息子は優秀だと聞いていた。
派閥の長としては頼もしい部下は欲しい。
スゴエラ侯爵には借りができるが、提案通り、”穏便”に済ませる事にしよう。
「ブナーン子爵に、すぐこちらに来る様に要請しろ」
ブナーン子爵はこの後、派閥の長である侯爵の雷の様な叱責を受け、ある約束をさせられる事になった。
この一年後、ブナーン子爵は、学校を卒業して帰郷し成人を迎えた息子に子爵位を譲って隠遁を強いられる事になる。
リューは久しぶりの故郷でやっと安堵した。
金貸しツアーの最後の締めが良くなかっただけに帰りの数日間はどんよりしていたのだ。
「やっぱりランドマーク領は良いね」
リューは屋敷に到着すると背伸びする。
「本当ね。リューが開発した馬車は乗り心地いいけど、やっぱり長く乗るのは疲れるもの」
屋敷の玄関で二人が話していると妹のハンナが迎えに出てきた。
父ファーザと母セシルも一緒だ。
「リューお兄ちゃんお帰りなさい!」
抱き付いて来るハンナにリューは一気に癒されるのだった。
「リュー、ご苦労様。リーンにセバスチャン、領兵のみんなもご苦労様、大変だったわね」
母セシルが一行を労った。
「リュー、リーン、あの件はもう、手を打っておいたから安心しなさい、危険な目に合わせてすまない」
父ファーザはリューとリーンを労うと抱きしめた。
「ううん、大丈夫だよお父さん。魔境の森の方がもっと危険だもの。まあ、帰りは雰囲気が最悪だったけど……」
場数を踏んでいるリューとリーンは、目を合わせると頷いて笑った。
「それを喜んでいいのかわからないが、まあ、無事で何よりだ」
ファーザも笑うと一同もつられて笑いに包まれるのだった。
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