第55話 わたしのどこがいいの?

 前話の続きが、もうちょっとある。

 わたしの胸中には、贅沢な悩みと叶わないだろう希望が存在しているのだ。



 彼の家で夕飯をご馳走になった後、渡瀬わたらせくん(仮名)のお母さまが、わたしを家まで送ってくださることになった。

 駅まで送ると言った渡瀬くんを制して、『その先が危ないだろ?』と。

 申し訳ないからと、いつまでも固辞するのもいけないかと思い、お言葉に甘えさせていただいた。

 その車中でのできごとである。


「渡瀬くんはさぁ……、最初の頃から、わたしのことを好きって言ってくれてたけど、こんなわたしのどこがいいの?」


 ストレートすぎる言い方だけど聞いてみた。バックミラー越しに、彼のお母さまの優しそうな笑顔が見えた。一方の渡瀬くんは、ただ、顔を紅くするばかりだ。

 まぁ、男の子は、母親を目の前にして、こういうのは言いにくいことだろう。


 こんなわたしを、好きだ! って言ってくれる男の子が、わたしの目の前にいる。それだけでも嬉しいことだけど、男女の恋愛ってそれだけで終わるわけがない。彼だって、興味がないわけがないって思うんだ。

 もし、その先に進んだ時、彼は、わたしの子どものような体で満足できるのか、それとも、みてくれの悪さに呆れて気持ちも離れちゃうのか……。今のわたしには、不安しかない。

 子どもみたいな体も、抱えたトラウマも、白くなりつつある髪も、わたしにとってはコンプレックスでしかないのだ。

 もし、そこを突かれたら、きっと、わたしは耐えられないと思う……。

 胸だって大きいほうがいいし、正面から抱きしめてほしい、髪だって濡れ羽色に憧れてるんだ。どれも叶わないけどね。


 お母さまを前にして恥ずかしかったけど、そういう想いを込めて聞いてみた。


「わたしとつきあうとたいへんだよ。わたし、凄く我が儘だから……」



 これは、わたしと親友みあちゃんと、そのほか、少ない友だちを巻き込んだ、掛け合い語録。


 捻りもオチもないけど、彼女みあちゃんがいなかったら、今のわたしはいなかったと思うし……。


 彼のお母さまが、バックミラー越しに言った。


「彼女にここまで言わせて、つかさ(渡瀬くんの下の名前ね)は、まだ思い切れないのかい? ひな(仮名)ちゃんは、つかさとエッチしてもいいって言ってくれてんだよっ!」


 渡瀬くんが、また、真っ赤になった。お母さまが続けた。


「高校卒業まで、ダメだからな!」

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