第50話 聴いてみたいと思わないか?

 前回第49話の続き。

 日曜日の午後、わたしたちは、いつものメンバーによる、いつものテスト対策のため、その度に利用させてもらってるカラオケのお店にいた。

 このテスト対策も、二年目を迎えると皆要領がよくなり、そのため、予定よりも早く終わってしまったのだ。



 ここで、またしても、友人の美亜みあちゃん(仮名)が、わたしに向かって無茶振りをする。

 わたしはいつも、苦手だって言ってるのに……。そのまま、カラオケ大会に突入した。

 まぁ、みんな、暫く窮屈な日常を送るんだもんね。羽を伸ばしたい気持ちはわかるよ。


 でもさぁ……。わたし、小六の頃、積もりつもって発症した登校拒否を、当時の担任に無理矢理、それも手を引っ張られて登校させられ、わたしがクラスで馴染めるためだとか理由をつけて、朝の授業前に全員で合唱させられ、クラスのみんなからは、『おまえの所為せいだ!』って、一方的に責められてかた、人前で歌う……ということが苦手なんだよ。

 美亜ちゃんは、そのことを知ってたはずなのに……? そんなことを考えながら、美亜ちゃんを睨むと、ニコリと笑顔を向けられた。


「この間の始球式には驚かされただろ?」


 美亜ちゃんの言葉に、その時、一緒に応援に来てくれていた、真琴まことちゃん(仮名)と莉緒りおちゃん(仮名)が、揃って大きく頷いた。男の子たち三人に、真琴ちゃんがそのわけを語ってくれた。渡瀬わたらせ(仮名)くんが、わたしの顔をマジマジと見つめている。ちょっと恥ずかしい。


「ひな(仮名)のスペックはあんなもんじゃない! そろそろ解禁してもいいと思うんだ! ひなは、小学生の時の一件でを苦手にしてるけど、それは音痴だからじゃない! というか、ひなとは何度か対戦したけど、わたし……、一度も勝ってない。おい、渡瀬? そんな、ひなの歌声、聴いてみたいと思わないか?」


 大きく頷く渡瀬くん。

 ちょっと待て! 対戦って、わたしに無理やりマイクを握らせ、わたしに内緒で採点機能をオンにしといて、でも、わたしのほうがちょっと上で、美亜ちゃんがひとりで悔しがったことが、過去に三回だけじゃない? それに、その度に、ひなの声はデジタル受けするんだ! とか言ってたのに……。なに言ってんだ? 今更。


 そんな困惑しているわたしをよそに、美亜ちゃんがわたしのスマホの画面をタップした。ロックは解除されなかったけど、そこには途中で止まっている曲名が表示されている。


「莉緒、これ!」


 美亜ちゃんが、その画面を莉緒ちゃんに向ける。莉緒ちゃんが即座に探し出して入力をする。その間、わずか、十秒あまり……。なんちゅう連携?



 これは、わたしと親友みあちゃんと、そのほか、少ない友だちを巻き込んだ、掛け合い語録。


 捻りもオチもないけど、彼女みあちゃんがいなかったら、今のわたしはいなかったと思うし……。


「ひなちゃんの声、普段喋ってるのとぜんぜん違う! なにこのかわいさは?」


 莉緒ちゃんにベタ褒めされた。相変わらず、渡瀬くんは固まっている。

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