第46話 絶句っつうよりフリーズすんな

 土曜日の夜は、遅くまでメイク講座につきあわされた。

 美亜みあちゃん(仮名)を始め、真琴まことちゃん(仮名)と莉緒りおちゃん(仮名)が異常なほどのやる気を見せた。『渡瀬わたらせ(仮名)が絶句するくらいかわいくしてやる』って言いながら、わたしの顔に塗り塗り塗り塗り……。疲れた。



 明けて日曜日の朝、ナチュラルなメイクの仕方を教わった。いざという時、自分で直せなかったらダメじゃない?

 そもそも、わたし、普段からメイクなんてしないんだ。乾燥と紫外線の対策くらいはしてるけど……。だって、美亜ちゃんが、『子どもみたいなほっぺがかわいい』って言ってくれたことがあったから……。たぶん、覚えてないよね?


 更に、明けて月曜日。ほんの少し、色がのってるかな? くらいの肌と、べにとは言えないほど薄いピンクのリップだけして高校に向かった。


 ひと駅前から乗ってきてる美亜ちゃんと車内で合流。美亜ちゃんが、わたしの顔をまじまじと見つめ、ひとつ頷いて、視線が下に下がっていく。全身を舐めるように見まわした後、わたしの腰に手が伸びてきた。


「この格好なら、ウエスト、もうひと折りしようか? ほら、このほうがかわいい!」


 そんなことを言いながら、美亜ちゃんが、一瞬にしてわたしのスカートの丈を少しだけ短くした。


「ひな(仮名)のニーハイ姿は、普段着ではよく見るけど、制服に合わせると雰囲気が変わっていいなぁ。ひなのこの姿を見たら、渡瀬の奴、絶句っつうよりフリーズすんな」

「そうかなぁ?」

 


 これは、わたしと親友みあちゃんと、そのほか、少ない友だちを巻き込んだ、掛け合い語録。


 捻りもオチもないけど、彼女みあちゃんがいなかったら、今のわたしはいなかったと思うし……。


 渡瀬くん、かわいいって言ってくれるかな? って、ちょっとだけ期待してたんだけどね。朝から、わたしのほう、見てくれないんだよ。

 美亜ちゃんは、『アイツ、照れてんだよ!』って笑ってたけど……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る