第40話 知らなかったんだから

 巷は、ゴールデンウィーク終盤とか?

 しかし、わたしの通う高校は、あくまでカレンダー通りなのである。

 ということで、金曜土曜と学校があったのだ。金曜日は何事もなくすぎたのに、土曜日にやってしまったわたし……。う〜む。



 ことの始まりは、午前中の授業が終わった昼休み(わたしの通う高校、土曜日でも一日授業があるのだ)。

 先日お世話になった野球部員たちが、こぞってわたしの教室にやってきた。みんなでお礼を言いにきたのだそうだ。うーん、義理堅いねぇ。

 そこまではよかった。


 その後、主将から、正式にマネージャーとしてのお誘いを受けた。丁重にお断りするわたし。そこをなんとか……と、女子マネの後輩ちゃんが、わたしの両手を取って握りしめる。

 三年生になった今さら、部活しようと思ってないわたしは、入部はしないけど、試合の応援くらいなら行ってあげるからと、後輩ちゃんを宥める。

 その時、『一緒にやってみたかったんです』と、後輩ちゃんが、わたしに抱きついてきて、耳元で囁いた……ところまでしか、ハッキリとした記憶がない。


 そう、正面から抱きつかれたことによって、硬直していく体、早く浅くなっていく呼吸。

 後から、美亜みあちゃん(仮名)から聞いた話によると、一瞬にして、わたしの顔色は蒼白となって、震えが止まらなくなったそうだ。

 この時のわたしは、寝るのが怖いと感じることで、精神的に参ってたからなぁ。

 後輩ちゃんを振り解くこともできなかったらしい。


 わたしが気づいた時は、保健室のベッドの中だった。一時的に意識を失っていたらしい。幸か不幸か、意識を失うことで、過呼吸も治った……のだとか?

 ベッド脇には美亜ちゃんがいた。目覚めたわたしを見て、美亜ちゃんが先生に声をかける。


「あまりにも突然だったからびっくりした……」

「ごめん……」

「野球部には帰ってもらったからな。あの女子マネには、知らなかったんだから気にすんなって言っといた」

「ごめん……」


 その後……。

 またしても、保健室までは、渡瀬わたらせくん(仮名)が抱きかかえてきてくれたことを聞かされて、恥ずかしくて顔が紅くなった気がした。

 今回は、状況が以前と比べて酷かったので、お父さんにも連絡がいって、迎えにきてもらった。帰る際も、お父さんがわたしを抱き上げようとした時、渡瀬くんが、『自分が……』と言って抱えられた。美亜ちゃんも、渡瀬くんなら落としたりしないからと、お父さんに吹き込んでいる。

 鞄は、莉緒りおちゃん(仮名)たちが用意してくれていた。

 みんなの視線に耐えられなくて、わたしは顔が上げられなかった。



 これは、わたしと親友みあちゃんと、そのほか、少ない友だちを巻き込んだ、掛け合い語録。


 捻りもオチもないけど、彼女みあちゃんがいなかったら、今のわたしはいなかったと思うし……。


 今年のゴールデンウィークは、いろいろと忙しかった。最後の日曜日まで忙しかった。

 その顛末は、次のお話で……。

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