第9話 スットコドッコイ・テキトー
やっぱりこうなりますよねー。
虎徹二号に跨った私は、小さな佐藤さんの後ろに座って、その細い腰に手を回していた。
肩に捕まろうとしたら、「それじゃあ、振り落としそうで僕が怖い」と佐藤さんに窘められて、この格好になった。
バイクのタンデムの要領だが、運転しているのが子供。後ろの彼女(偏見)役がガタイのいい男という、ちぐはぐな光景になっている。
見た目はともかく、アイギスを唱えて、後方から魔法を放つ、佐藤さんの虎徹に乗っているのはとても楽だった。
カイの虎徹に乗っていたときは、敵に遭遇するたびにロデオ状態だったから。
けれど、すっぽりと背中を覆うカイの体がなくなって、なんだか不安な気持ちになるのは、何故なんだろう。と考えて、刷り込みという言葉がぽっと頭に浮かぶ。
自分が生まれたての雛になった気分でどうにも癪だ。
「佐藤さん」
「ん?」
シタッシタッと、馬で言えば並足で虎徹を進ませる佐藤さんに、声をかける。
カイの無愛想な「なに?」と違う、柔らかい、鼻にかかるような返答に、ちょっと感動を覚えた。
「ヤクシャとシュージュの他にどんな種族が選択できるんですか?」
「うーん、まずオクト君のヒューマンだろ。それから、リョース……エルフって言ったらいいのかな。白い肌に尖った耳に美形ばかりの種族だね。あとは、ギガス……ごつい体で接近戦を得意とする種族で色々と耐性も高いし、あまりパーティを組みたくない人にはもってこいなんだけど、グラフィックのせいかこれを使っている人は少ないね」
どうせ操作するなら自分の好みにあう外見がいいもんな。
「以上の三つに、ヤクシャとシュージュを合わせた五種族から選択が可能なんだけど……オクト君、キャラ作成時に、他の種族見なかったんだね……。キャラの外見には結構力が入ってるんだけどな」
「長く続ける予定もなかったので、面倒でつい」
再びぺちょんと垂れた猫耳が私を誘惑……もとい、私に罪悪感を抱かせる。
「へえ、そうなの。俺はてっきり名前といえば『あああああ』な真性の横着タイプかと思ってた。オクトってのも今が10月だからだろ」
私達の話しなど聞いていないと思っていたのに、しっかり耳に入れていたらしいカイが、虎徹を横に並ばせた。
ぐっ、と言葉につまった私に、「図星」と冷たく言いおいて、再び先導に戻るカイ。
お前さんはそれを言いにわざわざ並んだんかい!
「違うから! オクトパスのオクトなの!」
と悔し紛れに、何故か訳の分からない事を叫んでから、はっとして口を押さえる。
「じゃあ、タコって呼ぼうか?」
などという可愛げのない声が、振り向きもしないカイから聞こえた。
「オクトでいい」
くそっ、腹の立つ。佐藤さんの腰に回した手がぷるぷると震えた。
そんな私達を見て、佐藤さんはまた、くっくっと笑う。
佐藤さん、ご機嫌なのはいいんですけど、尻尾をぴんとたてるのはやめてー。鼻にあたってむずむずする。
三人に増えてからの道のりは、結構気楽なものだったと思う。
敵はカイと佐藤さんが、危なげなく倒してくれるし。MP自動回復と、所持数MAXまで所持していたらしいリンデンのおかげでアイギスやら何やらの魔法も使い放題だし。
なごやかに会話を(おもに佐藤さんと)しつつ、他のプレイヤーに会うこともないまま、私たちは二度目の境界線の前に来ていた。
これを超えれば、上層! しかも敵もじめじめ系ではなくなるらしい。
逸る心を抑えて、私はしっかと佐藤さんの腰に回す腕に力を込めた。
念のためにと、カイと佐藤さんが、二重にアイギスをはる。
私達は上層へと足を踏み入れた。
厳重に警戒して突入した上層入り口は、中層へと入ったときのような緊迫した事態には全くならなかった。
本当になんのために立っているのか分からない土留めにもならないような、ひび割れた柱の本数が増えて、やっぱり誰が燃料を補充しているのか不思議で仕方がないランタンが心持豪華になり、ぴちょんぴちょんと絶えず響いていた水音が聞こえなくなったぐらいで、他は何も変化がない。
節約の為にアイギスを解除して、どのくらい進んだだろうか。
前方からパタパタと飛来するそれを目にした私は、身をちぢこませて、佐藤さんの背中に無理やり隠れた。
「佐藤さん」
「ん?」
「あれは、なんですか?」
「ストリゴイ・テンソだね」
「……さっぱり分かりませんが、蝙蝠ですよね」
土壁の奥から姿を現したのは、4~5匹で固まって飛行する、蝙蝠の群れだった。
上を向いた鼻に、尖った耳に、黒い翼。ごくごく普通の見た目をした蝙蝠である。
但し、サイズが芝犬並み。
確かに、テラテラジメジメ系ではなくなったが、これも嫌だ。
「蝙蝠だねえ。吸血を使ってくるから、噛まれるとHPを持っていかれるよ」
「あんたは一口で致死量になるだろう」
さらっと涼しい顔で恐ろしい事を告げるカイ。
あんなのに噛まれて一口で死なない方がおかしいと思うんだけど。
「――佐藤さん」
「ああ、分かってるよ」
促すように名前を呼ばれて佐藤さんは、早速アイギスをはってくれた。
ばっさばっさと、徒党を組んで飛び回っていたスト……ストリ……スットコ……蝙蝠達は、私達の姿を認めた途端、嬉々として目を輝かせ、わき目もふらずに飛来する。
「紅炎」
ぼっとカイの槍に赤い炎が灯る。
数もあるしスピードもある。カイの槍で対処できるのだろうか。私はますます小さくなって、佐藤さんに張り付いた。
「レンテ」
錫杖を掲げた佐藤さんの一言で、目にも留まらぬ速さで羽ばたいていた翼の動きが、しっかりと視認出来るようになり――なんで落ちないの? なんて突っ込んだら(略)――目で追うのもやっとだった蝙
蝠達の動きが、三輪車で全力疾走する幼児程度に遅くなる。
後は簡単だった。
突く突く、斬る薙ぐ、そして突く。
蝙蝠達は炎に包まれ次々と地面に落ちていった。
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