クースケ

第1話 心身共に疲れた時

曙光を感じ始めた頃合に

私は夢から醒めた。

けだるさをぬぐえない最中

起き抜けの顔で身支度を始める

不思議だ、頭はまだ夢の中だというのに

どんな状態でも体が覚えているのだろうか?

効率よく身支度を終わらせる。

十年以上も続けた結果すっかり身に染み習慣化されていた。


姿見で全身写しチェックしてから出ていく。(虚ろなひとみ、思考がまとまらない。)

それでも高級マンションの最上階からガラス張りのエレベーターに乗る。


視界にはいつものように立ち並ぶマンションや店舗ビルが階下に広がる景色。

ここは都心にあって私のモチベーションの象徴である。

14階建ての最上階。


係長に任命された時このマンションを買った。

自分の城を持ちたかった。

この時期を境に運が回り始めた。

休みの日もほとんど疲れて寝ていた。

それでもこの仕事が好きだった。


忙しくても最新のトレンドを抜かりなくチェックして自分の身にしていった。

いつも仕事のことだけを最優先に考えてきた。

大学の頃からの友人が次々と結婚していっても興味がなかった。

私の道は、自分で切り開いていくつもりだったから。


1階のエレベーターの扉が開いたと同時に滑り出る。

この時間帯はとても静か、

やがて小中学生たちの声で賑わっていく。


雨が降っていた。静かな雨だ。

しんしんと、静かに降っている

けれど雨雲に覆われていて1日中止みそうもない。


いつもの光景。

いつもの朝の通勤パターン。

せわしく15年通った道。


そしていつもの喫茶店。

いつもの自分の席?に座る常連たち。

私にとっては朝のモーニングを取りながら仕事の最終チェックをする大事な場所。

洒落た店もどんどん増えてきたけれど、この店のこの席が一番落ち着く。


そして席についてパソコンを広げようとしてあせる。

そのタイミングで、いつものウエイターがオーダーを取りに来る。

「いつものでよかったですか?それから何かご用があったら呼んでください。」


いつもはこんなこと言ってたかしらと一瞬思いながら…

鞄の中のパソコン。えっ、鞄。鞄を忘れた?

何やっているの私、どうしちゃったの?頭の中が真っ白になっていきかけた時、さっきのウエイターが「今日は特等席にモーニング運んだんでこちらへ」と私に向かって案内をする。


そんな席あったかしらと思いながら、気が動転していた私は言われるまま歩いていく。

「ここって従業員の休憩所じゃない?!。ちゃんとお金払っているんだから、ばかにしないで」と怒って出ていこうとすると、調理場から顏なじみの店長が来てウエイターと入れ替わる。

「どうぞここに座ってください、気になったのでここにきてもらったんです。最近何があったんですか。よかったら話聞かせてください」そして、タオルを差し出す。

その時に初めて、結構な雨に濡れていることに気がつく。

髪や服からは雨水がせわしなく落ちていく。おまけに足元は裸足だった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る