第2話 足跡
ヤスケが目を覚ますと、目の前に真っ白なひとりの少女が佇んでいた。彼女の出で立ちはこの世の者とは思えないほど妖艶で、引き込まれる秘めたものがあった。
「ヤスケ、よくやった。褒めて遣わす。」
そう白い少女はヤスケを労わる。ヤスケは初めいったいなぜ自分が称えられているのか理解できなかったが、段々と細男を殺したことについて賞賛されていることに気付く。
そうして、自分がよそ者を殺したことを実感し始める。
「これで・・・。これで・・・村長や男衆の皆が報われる・・・。」
自然とヤスケの目に涙が込み上げていた。その姿は村の死んでいった者達の無念を少しだけ晴らせたと感じさせるものであった。
白い少女はそんなヤスケを見て
「まだまだ憎き者共は蔓延っているが、今は泣いても良かろう。」
そう呟く。
ヤスケの涙も止んだ頃、白い少女が自分のことについて話し始める。
「ヤスケ、初めてでもあろうし、久方ぶりでもあろう。我はミナカという名じゃ。お主も薄々気付いておろうが、地の底で出会った蛇ぞ。」
ヤスケは驚いた表情でミナカを見て呟く。
「あの大蛇じゃったか。こら驚いた。」
「はははは、そうであろう、そうであろう。さてヤスケ。お主これからどうするつもりぞ。」
その言葉にヤスケは少し考えて答える。
「村の皆の墓さ、立てるべ。そんげ後、他のよそ者探しにいくべ。」
ミナカはその言葉を聞いて理解を示し、
「あい、わかった。ならばはんで墓を立てるぞ。」
そうして、村の真ん中に簡単な墓標を立てれば、ヤスケとミナカはそれに手を合わして
「今はこげなことしかできねのを許してけれ。ばってん、あのよそもの共に報いを受けさせするけ、どうか安らかに眠ってさ。」
ヤスケはそう言い残し、無人の村を後にする。そしてよそ者が通ったと思われる道跡を辿るのであった。
∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴
「あれ、そういえばあのヒョロガリ帰ってきてなくね? 」
「ああーー。言われてみればそうだな。」
ひとりのよそ者の異世界人が細男がいないことに気付く。その場にいた大勢の他の者たちも細男が居ないことにやっと気付くあり様であった。
そうして、村を略奪した者たちが思い出したかのように
「そういえば、あいつ。村の奴に襲われたな。そうですよね、ヨミナ姉さん。」
そう言われて、細男と同じ馬車に乗っていた赤髪の女に聞く。
大勢の輪から遠く離れていた赤髪の女のヨミナは無関心な様子で
「どうでもいいから覚えてない・・・。」
と答える。
「そ、そうですよね・・・。」
とそれを見ていた者達は、ヨミナの他者に対する無頓着さに呆気にとられるが、誰もそれ以上のことは聞けなかった。
「あっ、そうだ。なら、あいつが死んでるかどうか賭けようぜ。」
と、誰かが思いつく。それに他の者も面白そうだと賛同して各々が賭けはじめる。
その内訳は、自分達がこの世界の原住民に負けるはずがないと考える者が多数だったが、大穴を狙って死んだ方に賭ける者もいた。
その仲間の安否すら娯楽の対象にする者達に静かな怒りを覚え、声を荒げる者が一人いた。
「お前ら、どうかしてるぜ。同じ仲間のゼインのこと、誰も心配じゃねぇのかよ!! 」
一瞬、静寂が場を支配するが、すぐに声を荒げた者にヤジを飛ばす声が随所から出てくる。
「なんだよ、トオル。お前、ゼインと仲が良かったからって俺らの遊びにケチつけるなよ。」
「そんなに心配だったら、お前がゼインのことを探しに行けよ。」
「そうだそうだ、はやくお友達のゼイン君のことを探しに行けよ。」
仲間のゼインのことを心配するトオルは、その場に居たら怒りで我を忘れてしまうと考え、その場から立ち去る。そして、すぐにゼインの無事を確かめに行くのであった。
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辺りが暗くなり始めた頃、ヤスケとミナカは異世界人の痕跡を追っていくうちにある村へと辿りつく。村に近づいていく内に、ヤスケはその異様な光景に気付く。
その村人達の身体はひどく痩せ細っており、誰もが骨と皮しかないような状態であった。そして、村の部外者であるヤスケ達をひどく怯えたような様子で見る。
怯える村人にヤスケは近づいていく。
「おらは、隣の村のヤスケで食べ物を奪いに来たわけじゃねぇだ。だから、安心してけれ。
ヤスケは何度も自分は異世界人ではないと訴え続け、
その言葉に村人達は、最初、疑いの目で見ていたがヤスケが奪いに来たわけではないと訴える様子にそれが本当だと気付き始める。
そして、村人達が集まり始める。ヤスケはその者達にこの村で一体、何が起こったのかを問いかける。
その質問を村の代表者のようなものが答える。
「数日前、恐ろしい力を持つ者達に、村の食料の蓄えのほとんどを出すよう脅されました。」
ヤスケとミナカの顔が険しくなる。
「やはりか・・・。あの外道共、おらの村以外にも同じことをやっとったか・・・。」
「どうやらそのようじゃな・・・。して、村人よ。その恐ろしい者達は他に何か言ってなかったか?」
「ええ、言っておりました。『何日かしたらまた来る。』と言っておりました。」
と、村の代表者は答える。
それを聞いたミナカがヤスケに耳打ちし、
「ヤスケ、この村に何日か滞在するが吉ぞ。」
「そだな。おらもそう思っていた。」
ヤスケはそう言って、村人達に自分達に起きた出来事を聞かせるのであった。
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一方、その頃。トオルは、友人のゼインの無事を知るため、彼が略奪したヤスケの村に到着していた。
「ゼイン、無事でいてくれ・・・。」
トオルは、祈るように住民の死体が転がる村の中を探し回る。
そして、首元を噛み殺された死体を見つける。トオルはそれを見て、落胆しうわ言を言い始める。
「おい・・・。嘘だろ・・・。こんなのありえねぇよ・・・。」
それは、この異世界に来て初めて彼にできた友人のゼインの死体であり、その死に顔は恐怖で歪んでいた。
トオルはしばらくの間、唖然としていたが徐々に状況を理解し始めて、何が彼を殺したのか分かり始める。
「誰かに殺されたんだ・・・。まさか、ここの住人に殺されたのか・・・。いや、でもそれなら、ここに誰かいるはずだ。」
トオルは、ゼインを殺した奴はどこへ行きやがったと考える。そして、トオルは友の死体のそばにあった足跡を見つける。
「この足跡、ゼインの靴底の後と違う。まさか、この足跡の奴が殺した奴かもしれねぇ・・・。ゼインの仇・・・死を以って償わしてやる。」
彼は友人を殺した者に復讐を果たすため、その足跡を辿っていくのであった。
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