第185話 グトラの街
グランヴェスタ共和国の国境の街であるグトラの街へと到着したミナトたちはとりあえず遅い昼食をとるため食堂を探すことにした。メインストリートらしき大通りを歩く。軒を連ねる商店には常に人が出入りしているし、露店のようなものも多く出店しておりなかなかの活気であった。
「王都ほどではないけれどやっぱり活気に溢れているな」
街並みを見た素直な感想を呟くミナト。
「いい街みたいね」
シャーロットもそんなことを言ってくる。
「カフェのようなものは少ないようだ。武具、鉱石、宝飾品、それに魔道具か…。商店も露店もそういった品を扱う店が多いようだ」
「ん。食品が少ないかも…」
デボラとミオが街の印象をそう言ってきた。確かにとミナトも思う。
王都やアクアパレスではこういった大通りではカフェや食品を扱う商店やマルシェが多かった。武具、鉱石、宝飾品、魔道具などを扱う店は商業地区の特定の区画に集中しているのである。ここは流石にドワーフが多い国らしく職人が作った品を扱う店が多いらしい。
「道具類は首都のヴェスタニアとか地のダンジョンがあるグレートピットでも探せると思うからこの街ではスルーだな」
「ミナトの装備はアースドラゴンに造ってもらえばいいしね。でも食品を扱う商店は見てみたいわね。この国の食材にはちょっと興味があるわ」
ミナトの言葉にシャーロットがそう返してくる。エールを探しにこの国までやってきたが、もう一つの大きな目的が地のダンジョンへと潜ることだ。地のダンジョンにはデボラたちやミオたちと同じようにアースドラゴンたちが暮らしている。アースドラゴンは特殊な武具や魔道具を製作できるということなので、肉体的な耐久性は人族の脆弱さをそのまま保っているミナトのために専用の防具と状態異常などを防ぐアクセアリーを造ってもらおうというのだ。もちろん、アースドラゴンたちが造っているお酒にも興味がある。そしてそれだけでは終わらないような気がしているミナトだった。
「我らとしては装備品より、食料品か?」
「ん!デボラ、食いしん坊!」
「ミオ!食べる総量はお主の方が多いと我は思うぞ?」
「ん、気のせい!」
デボラとミオがそんなことを言い合っている。世界の属性を司るドラゴンにとっては防具といったものは必要ないらしい。
「それで食堂とかってどこにあるのかな?」
ミナトがそう呟きつつ、路地の方にも目を向けてみる。すると一つの路地へ職人風のドワーフ五人が吸い込まれているのを見かける。
「ミナト?」
シャーロットがミナトの視線の動きに気付いたのか聞いてくる。
「シャーロット、あっちに何かありそうだよ」
ミナトはシャーロット、デボラ、ミオを連れドワーフ達を追いかけるようにして路地へと踏み込んだ。
「ミナト!あそこに食堂があるわよ!」
シャーロットが指し示す先には小さなドアのある若干寂れた建物が一軒。そのドアに申し訳程度の看板が付けられ食堂と記載されている。
「これはまた初めての街でマニアックというか通好みというか。こういうところは本当に美味しい店か、ハズレの店かのどちらかなんだよな…」
そうは言ってみるがなかなかによい雰囲気を纏った店だとミナトは思う。そしてよい香りが漂ってきた。これはシチュー的な香りのような気がする。
「いいんじゃない?何事も挑戦よ!」
「うむ。それによい香りがする。この店はアタリではないか?」
「ん。大丈夫そう!それにお腹がすいた!」
皆からそう言われミナトもどんな料理が出るのか興味が湧いてきた。
「よし!ここに決めた!行ってみよー!」
「いいわね!」
「うむ。期待させる!」
「ん。きっと美味しい!」
笑顔でそう言ってくれる美女たちを引き連れてミナトはドアを開く。
「いらっしゃいませー!」
元気な声に出迎えられた。店の奥から現れたのはドワーフの女性。食堂のおばちゃんのような気風のよさと親しみを感じさせる。
「四人なんですが?」
「はいはい!こちらへどうぞ!」
流れるように四人掛けのテーブルへと案内された。ミナトとシャーロットが隣り合わせで、デボラとミオがその対面へと座る。店内を見回すと外観にくらべて中はかなり広い印象だ。先ほど見かけた職人風のドワーフ達もテーブル席に座っていた。
「うちの昼はメニューが少なくてね。牡蠣料理二品とパンになるんだけどそれでもいいかい?」
そう聞かれて四人前を頼むミナト。
「あんた達エールは飲めるかい?うちはワインもあるけど一杯目はエールがおススメだよ?」
おばちゃんがそんなことを言って…、
「お願いします!」
間髪入れずにとはまさにこのこと、かぶせ気味にエールをオーダーするミナトであった。
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