第59話 異変




 反省はしたし後悔もしたし教会で懺悔もした。

 ルティアは覚悟を決めて城に向かう馬車に乗り込んだ。王太子のパンツを脱がした挙げ句にそのパンツを持ち帰った罪は重いが、逃げるわけにはいかない。

「大丈夫よ、ガルヴィードだもん……怒ってるだろうけど……でも、大丈夫」

 馬車の中でぶつぶつと呟く。怒らせたことも喧嘩したことも数え切れないほどあるが、パンツを脱がせたことはないので、さすがに反応が心配なのだ。脱がし合い勝負だとほざいたあの時の自分は頭がどうかしていた。

 もちろん、ガルヴィードはルティアの着衣に手を出すようなことは一切しなかった。どうにか落ち着かせようと言葉を尽くして説得してきて、乱暴に払いのけたりはしなかった。そんな男のパンツを脱がしてしまっただなんて……っ!ルティアは己れを恥じて頭を抱えた。

「うう……ちょっと落ち着こう……」

 このところいろいろありすぎて、ルティアも少し混乱していたのだろう。いきなり子どもを産む話が出てきたことで焦ってしまったが、ガルヴィード自身は何も変わっていない。昔から知っているガルヴィードのままだ。

 そう考えると胸が落ち着いた。

 そこでちょうど城に到着したため、ルティアは明るい気分で馬車から降りた。迎えに出てきた侍女に案内されて、勝手知ったる城の中を進む。

 だが、ガルヴィードの部屋に辿り着く前に、慌てた様子のルートヴィッヒが廊下の向こうから駆けてきた。

「ルティア嬢、よく来てくれた」

「はい?」

 ルティアは首を傾げた。昨日は反省に費やしたために城に行かず、代わりに兄が謝罪に行ってくれたはずだったのだが、ルティアが一日来なかっただけで何故ルートヴィッヒが慌てているのだろう。

「とにかく、来てくれ」

 ルートヴィッヒに手を掴まれて、ルティアは目を白黒させながら小走りに廊下を進みガルヴィードの部屋の前に立った。

 見慣れた扉の前で、ルートヴィッヒはルティアから手を放して呼びかけた。

「ガルヴィード!ルティア嬢が来てくれたぞ。とにかくここを開けろ」

 だが、扉はぴっちりと閉まったままだ。

 ルティアはきょとん、と目を丸くした。

「え?ガルヴィード」

 ルティアはルートヴィッヒを押しのけて扉の前に立った。

「どうしたの?」

 部屋の中から気配は感じる。ガルヴィードは中にいると確信した。

 扉に手をかけるが、中から鍵がかかっていて開かない。

 ガルヴィードがこんな風に引き籠もるだなんて、今までになかったことだ。ルティアは思わずルートヴィッヒに目で訴えた。

「今朝からこうなんだ。食事もとらず……」

 ルートヴィッヒの眉が曇る。ルティアも唖然とした。

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