第46話 ユーリ・シュトライザーの朝




 白い服の子どもと黒い服の子どもが手を繋いで走っている。

 仲の良さそうな様子に、微笑ましい気持ちになる。

 二人とも、体の大きさと同じぐらいの杖を持っている。白い子どもは白い杖、黒い子どもは黒い杖。

 耳元で、誰かの声がした。

——ユロクト

 誰だろう。聞き覚えのない声だ。それに、ユロクトなんて名前も知らない。

 僕は、ユーリだ。

 ユーリ・シュトライザーはなにやら騒がしくて目を覚ました。

 部屋の戸ががんがん叩かれており、「おいこら!」と怒鳴り声が聞こえる。

「んあ……?」

 口元のよだれを拭って起き上がると、ユーリは戸を開けた。

「お前!六部卿の元に呼び出されてるのに何でのんきに寝てるんだよ!さっさと着替えろ!」

「ん~?誰だっけ……」

 外に立っていた少年のことが思い出せず目をこすりながら呟くと、少年は茶色い瞳を怒らせて怒鳴った。

「カーク・クヴァンツだ!」

「そっかそっか。ちょっと待って。飴をあげよう」

「馬鹿にしてんのか!いいからさっさと着替えて出てこい!」

 カークにどやしつけられ、ユーリはふやけた返事をしながらも言うことに従った。

 着替えながら、昨日のことを思い出す。ユーリが創った謎の石を拾ったカークの手のひらで石が溶けて、それを見たビクトルに怖い顔で迫られてユーリは半泣きで全て白状したのだった。

 その後、ユーリはいろいろ問い詰められ、もう一度あの石をビクトルや六部卿の前で創ってみせることになった。カークはどこかに連れて行かれて体に異常はないか調べられたらしい。

 幸い、カークはぴんぴんしているのでユーリもほっと胸を撫で下ろした。男爵家の令息に何かあったりしたら慰謝料が恐ろしい。

 それにしても、あの石を創って見せた時の周囲の驚きようといったら。ビクトルなんか文字通り腰を抜かしていた。

——もしかして、石が出来ちゃうのはあまり良くないのかも。皆、深刻な顔してたし。

 手本を見せてくれた魔法使いや一緒にいた侯爵令嬢だという美少女が手のひらに生み出した丸い光は、手のひらを握ると跡形もなく消えていた。消えずに固まって石になってしまうのはまずいのかもしれない。

——僕、本当に魔法の才能なんかあるのかなぁ?

 才能があると言われたのだからすごい魔法をばんばん使えるのかと思いきや、杖を持つことさえままならない役立たずぶりだ。そのうち追い出されるかもしれない。そうなったらレコス王国に帰るだけだが。

 着替え終えたユーリは荷物から飴の瓶を取り出してポケットに入れた。これはユーリを心配した父が持たせてくれたものだ。

 魔法を使えるようになれば今よりも父の役に立てるだろう。そう思って、ユーリは頑張ろうと自分に言い聞かせて部屋を出た。



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