第7話 令嬢達の密やかなお茶会
ルティア・ビークベルは伯爵令嬢だ。
伯爵令嬢ともなれば、他の家のご令嬢からお茶会に招かれるのは珍しいことではない。
仲の良いご令嬢達と優雅にお茶を飲み、お菓子を食べ、穏やかに語り合うのだ。
「うふふ。ルティア様、こちらごらんになって」
「嫌だわ、ハルベリー様ったら。ルティア様にはこちらの方が」
「いえいえ。ルティア様にはぜひ私のおすすめを」
仲良しのご令嬢方がきゃっきゃっと鈴を転がすような声ではしゃぐのを、ルティアは微笑みを浮かべて見守っていた。
決して微笑みは絶やさない。
なぜなら、微笑んでいれば目を細めていられる。
そう、テーブルの上に積まれた代物を見なくてすむのだ。
テーブルの真ん中に積まれた春書―――エロ本を。
貴族令嬢のお茶会のテーブルに載っていていい代物ではない。
「ですから!ルティア様にはもっと初心者向けじゃないと!」
「クロエ様、優しいだけではいけませんわ!もっと踏み込んだ内容でないと!」
「お二人とも、落ち着かれて!ルティア様にはまず想像の翼を広げていただいて、この……あらまあ、すごい」
昼日中のお茶会で貴族令嬢がエロ本読んで頬染めてはいけない。美しく庭を整えた庭師が泣くぞ。
「でも、ルティア様が英雄の母になるだなんて……お友達として私も出来ることはなんでもいたしますわ!」
「私もよ!なんでもおっしゃって!」
「ルティア様はただ者ではないと以前から思っていましたわ!」
「……ありがとう、みなさん。まずはエロ本を仕舞っていただけるかしら?」
ルティアは優雅に微笑みを浮かべたままそう言った。
「ルティア様、私達、アルフリード様のご誕生を心よりお待ちしておりますのよ?」
「そうなの。でも、私は産むつもりなくてよ?」
「何をおっしゃるの!アルフリード様を産めるのはルティア様だけですのよ!?」
「そうですわ!どうか恐れずに、貴女様の道をお進みになって!英雄誕生への道を!!」
気軽にそんな道をお勧めしないでいただきたい。お勧めされても、お進む気ないから。
ルティアは深い溜め息を吐いた。あの夢以来、ルティアの都合などお構いなしで毎日城に連れて行かれてガルヴィードの私室に放り込まれるのだ。いきなり自分の部屋に伯爵令嬢を放り込まれるガルヴィードも不本意だろうが、いきなり王太子の部屋に放り込まれるルティアも不本意である。もっと丁寧に扱え。英雄の母だぞ。いや、産む気ないけど。
そんな日々に嫌気がさして、息抜きにお茶会に出かけてみればご令嬢達からこの仕打ち。
前世で聖人でも殺したんだろうか私、とルティアは前世の自分を疑った。
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