第40話 研究者は素材採集ついでに新商品を披露する
小型の魔虫を倒しつつ、
「そ、それで、どうやって魔虫を倒すんですか?」
ずり落ちそうな眼鏡を指先で抑えながら、トゥアンがそう疑問を呈した。
通常、
「か、壁役も回復役もいないコンビでのたた探索ですから、無茶なことは出来ないでしょうし、そそそもそも目的の魔虫は、パーティ単位でも苦戦するような大物ですよね? ま、まともに正面から戦ってたら身が持たないですしわわわ割にも合わないのではないでしょうか?」
「正面から戦えばね。
そう言いながら、ロイフェルトは腰のポーチから、U字の金属に取っ手の棒がくっ付いた、音叉によく似た金属の棒を取り出し、近くの壁にコツンと当てた。
するとキィィィンと甲高い金属音が鳴り響き、
「い、今のは……た、探知魔法ですか?」
「うん、そうだけど……ああ、そうか。以前使ったときは、君はその場に居なかったもんね。これは君の言う通り、音を鳴らしてその音に魔力を忍ばせて周囲を探知する俺オリジナルの探知魔法さ」
「お、音で探知ですか……あ、あたしにも使えますかね?」
「反響する【音】を全て個別に感知して、瞬時に脳裏に描き切ることが出来れば使えるんでない?」
「……じ、自前の探知魔法にみみ磨きをかけることにします」
「まぁ、確か君は感知系の視力強化呪印を持ってた筈だし、そっちに磨きをかけた方が得策であることは間違いないね」
「あ、あたしの視力強化呪印はマナの流れをみみ【視る】ことが出来るだけで、あああまり使い勝手は良くないのですがね……」
「視力強化を極めれば、戦闘にだって役立つよ。細かな情報を継ぎ合わせれば未来視にだって近付ける可能性もあるんだから。視覚からの情報ってのはそんだけ重要なのさ」
「うう……が、頑張りますぅ……」
がっくりと項垂れるトゥアンを尻目に、ロイフェルトは感覚を研ぎ澄まし、送られてくる情報を選別していく。
「……んー………………この先にはかなりの数の魔虫がいるみたい。目的の魔虫は更に奥だけど、それこそ二人だけで入り込むのは御免被りたいかな?」
「そそそれではどうするのですか?」
再度問われたロイフェルトは、ポーチから何かを取り出しトゥアンにそれを見せる。
「これを使う」
取り出したのは、表面がザラザラした直径5cm程度の黒い球体。それが5、6個ほどロイフェルトの手のひらに乗っている。
「そそ、それは?」
「街で売ってた煙り型殺虫剤の成分を調べて、調合し直して強力にしたやつ」
「し、市販されてるものをですか? まま魔虫に効くんでしょうか?」
「なんで効かないって思うの? 試したの?」
「い、いえそれは……普通の虫と魔虫は違いますよね?」
「何処が?」
「そ、それは……おお大きさが明らかに違うし、なな何よりマナによって力を得て更に巨大化しているのが魔虫なんですから、ふふ普通の虫と魔虫はもも最早別な生き物なんじゃないですか?」
「それだと、貴族と魔法が使えない平民は別な生き物だってことになるけど?」
「にに人間は、マナを扱えなくてもマナがまま全く皆無であることはありませんし……」
「それは虫も同じだよ? この世に生を受けるもの全てにはマナが内包されている。いや、生き物だけじゃなくて、それこそ道端の小石にだってマナは含まれてるんだ」
「そそそうなんですか?! それじゃ……いやでも……やっぱり、まま魔虫と普通の虫じゃ違い過ぎておお同じものとは思えません」
「まぁ、マナによって強化はされてるからね。でも、身体の構造的には実は同じだったりするんだよ。だから一般的な殺虫剤でも、やりようによっては抜群の効果を発揮させることもできる。寧ろマナが介在しない殺虫剤の方が効き目があったりするんだ。ま、細工は流々仕上げをご覧じろってやつだね」
そう言うと、ロイフェルトは球体からそれぞれ伸び出ている導火線に火を付け、
「トゥアン、
「きょきょ強度を必要としないなら、たた多分大丈夫です」
そう答えると、トゥアンは杖を翳して目を瞑った。
『
トゥアンの呪文が完成すると、目の前の地面がもこりと持ち上がり、目の前の通路を塞ぐ壁となった。
「ご苦労さん。あとは煙が充満するまで放置しておこう。壁はどれくらい保つんだい?」
「きょ、強化したわけでもない、たたただの壁ですので、一時間くらいは保つと思います」
「そっか。んじゃ一旦外に出て時間を潰すとしましょうか」
そう言って踵を返したロイフェルトを見て、トゥアンも「は、はいですぅ」と、あとに続いたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……さて、ソロソロ良いかな? 中に行こうか」
「りょ、了解です」
携帯食を食べ一息ついたロイフェルトとトゥアンは、再度
途中、小型の魔虫を蹴散らしつつ奥へと進むと、危なげ無くトゥアンが作った壁までたどり着いた。因みに壁は既に半壊していた。
「かか壁は……じじ時間切れですね。煙は上手く充満したでしょうか……」
「多分大丈夫だとは思うけど、一応確認してみるね」
ロイフェルトはそう言うと、再び音叉を取り出して壁でコツンと鳴らして音を反響させる。
ロイフェルトの探知魔法は独特だ。音叉により生み出された音波にマナを乗せ、その反響した音波を、五感をフル動員して感知するのだ。それを視覚上に3D映像として描き出すので、今回のような
「大丈夫みたいだね。一応鼻と口元は布かなんかで抑えて行こうね」
「りょ、了解です…………ろろろロイさんの話しを疑っていた訳ではありませんが、このここ効果を目の当たりにすると、じじじ事実は事実として受け入れなければなりませんね」
「まぁ、気持ちは分かるよ。確かに普通、魔物に魔法薬以外のアイテムが効くとは思わないだろうしね。ただね、覚えておいて欲しいのは、魔物も生き物だってことなんだよ」
「まま魔物も生き物……」
「そう。生き物である以上、呼吸もするし、食事もする。アンデットでない限り、どんな強い魔物であっても生き物として何かしらの特徴があるはずなんだ。それを踏まえて戦略を立てれば、自分達より基礎能力が高い魔物でも倒しようがあるのさ」
そう会話しながら、崩れた壁を跨いで
「ま、魔虫を仕留められる程の殺虫剤を使ったあとですが、なな中に入って大丈夫なんですか?」
「ヒトと虫では身体の構造が違うから、効果のある毒の種類も違ってくるんだ。まぁ、無害とまでは言えないから、なるべく口元から布は外さないようにね」
「わわ分かりました。しししかし、なななんと言うか……そ、それほど効果的な殺虫剤が、ししし市販されてる殺虫剤と成分がほぼ同じだって言われても、きっと誰も信じないですよねぇ」
「まぁ、同じ素材を使っても、成分を抽出する方法とか、より煙が強く発生する加工の仕方とか、微妙に違うからね。各工程を、より細かくより丁寧にしなくちゃならないから作成難度は跳ね上がるし」
「でででも、その成分抽出と加工方法をいい一時秘匿して、ある程度商品が出回ってりりり利益を得てから公開すれば、ばばば莫大な利益を得ることができますよね?! そ、それに、公開した内容が広まる前に、更に新しい調合レシピを開発できれば、更なる利益が望めます!!」
目をドル箱にして力説するトゥアンを見やりながら、半ば感心して頷き返すロイフェルト。
「うん、そうだね。出会った頃は商人志望と言っても口だけで、オロオログダグダしとったトゥアンさんが言うようになりましたなー。もう、どぎつくガメつい心を持った立派な
「ここここんなあたしにしたのはろろロイさんじゃないですか! せせせせせせせせ責任取って下さいよー!!」
「そっか……よし、分かった!」
「へ? そそそそれじゃ……」
「うん。明日から……」
「あ、明日から?!」
「起きてる間はずっと俺の秘蔵の研究をレクチャーしてやろう。これをこなせば研究者としても、商人としても一人前になれること請け合いだ」
「ちちち違うんですぅぅぅぅ! そう言うことじゃなくてぇぇぇぇぇ……」
ガックリと項垂れるトゥアンを横目で見ながらロイフェルトは思うのだった。
(俺の守備範囲外の巨乳だってことは置いといて、この反応とか研究室での真剣な顔と普段とのギャップとか、結構良い線行ってんだけどなぁ……惜しいな。俺、ロリ系は駄目なんだよなぁ。十年後ならともかく、今の時点じゃこの娘は
そう結論付け肩を竦めるロイフェルトであった。
その後、
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