怠惰を冠する研究者《リサーチャー》

@remwell

第一章 研究者、国立魔術学園の生徒となる

第1話 プロローグ



 幼い頃から“感の良い子”と言われていた。



 それこそ、自我が芽生えてもいないような幼子の頃から、将来を見込まれる程の感の良さが見て取れた。


 例え不機嫌で愚図り気味の時であっても、共働きの両親が、預けられ先にたどり着いて入口の扉に手をかけるその前にピタリと泣き止み両親を笑顔で迎え入れたり、夜中に突然泣き出したと思ったらその後大地が揺れ始め、大きな地震が起こり始めたりと、その逸話には事欠かなかった。


 幼子から少年への成長を経ても、それは治まるどころか、より磨きこまれていった。言葉を覚えた事で知恵と知識が少年を高め、より深く且つ広範囲に影響を与えていく事になっていったのだ。


 その為、周囲に分かりやすい形で認知され、遂には街でも評判を呼ぶようになる。


 少年は、両親に褒められたいが為に、両親に喜んでもらいたいが為に、無邪気にその能力ちからを揮っていった。




 しかしその頃から少年に近い人達に変化が見られ始める。




 感の鋭い少年に対し、大人達は本音を隠す様になっていく。些細な動作で多くを察する感の良さ、 ひとつの言葉で多くの意味を読み取る鋭さに、大人達は称賛よりも畏怖を覚えはじめたのだ。


 それは少年の両親も例外ではなく、少年の側から離れていくまでそう時間は掛からなかった。少年に弟が出来てからはそれが顕著になっていき、下の息子の育児を自分達の言い訳に、少年との関わりが目に見えて減っていった。


 歳の近い子供達は、もっと行動が直接的だ。自分達とは違う異質な存在に、子供にありがちな残酷さをもって少年を執拗に排除する様になっていき、時には言葉で、時には暴力をもって、しかも集団で少年を追い詰めて行った。


 その頃になると、さすがに少年は自分が異質な存在であることを悟りはじめ、極力周囲に埋没していく事を心掛けていくようになる。目立つ言動は控え、子供達からの執拗な攻撃には逆らわず、大人達には極力近寄らないようにする事で対処した。


 そして少年と呼べる歳が過ぎ去ると、彼は孤独でいる事に安堵するようになっていく。口数は少なく、接触の少ない彼を気にとめる人間は皆無になった。


 いつも一人で過ごし、誰とも会わない日が増えていき、口を開く事もなく、ひっそりと生きていく事を是とした。


























 ……故にこれはその酬いだ。




 人と交わる事を避け、関係を築き上げる努力を放棄し、理解を得ようとする努力を放棄し、そして相手を見据えて理解しようとする努力を放棄した酬いだ。


 彼は、最早自分の意思を離れてピクリとも動こうとしない己の四肢を投げやりに見やりつつ、目の前に広がる炎の壁を他人事のように眺め、絶望と安堵が入り混じった吐息を漏らしてゆっくりとその瞳を閉じたのだった。

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